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税務・会計

第29回 デジタル経理で事務はなくなる

賢い社長の「経理財務の見どころ・勘どころ・ツッコミどころ」

 令和3年9月1日からデジタル庁が発足しました。行政手続きのデジタル化やIT化だけではなく、民間のDX (デジタルトランスフォーメーション) を推進し生産性の高いデジタル社会の形成を目指しています。
 その中でも、企業経営において特に注目されているのが、電子インボイスと契約・決済のデジタル化です。これまで紙とハンコを使って行われてきた商慣習をペーパーレス化し、受発注から代金の請求、決済に至るまですべてデジタル化して処理しようとするものです。これによって会計処理が効率化し、経理を中心としたバックオフィス業務の生産性が大幅に向上することが見込まれています。

 そこで今回は、昭和から平成、令和に至るまでの経理の仕事を振り返り、今後のデジタル経理への移行について考えます。

御社の経理はデジタル化の準備ができていますか?

 

昭和時代の経理は「職人技」

 今となっては懐かしい昭和の時代、経理の仕事はすべて手作業でした。毎日、すべての取引を借方と貸方に分けて会計伝票に起票し、その後に勘定科目ごとに区分して総勘定元帳に1行ずつペンで転記します。現金出納帳、売上帳、仕入帳、手形帳なども同様に手書きで記帳し、その時点での残高を算盤や電卓で計算していました。

 月が変わったら、各勘定科目の借方と貸方の1カ月分を集計し、月次試算表を作成します。コンピューターを使わずに会社の1カ月分の取引を全て集計するには時間がかかり、借方と貸方の合計をピッタリと一致させるのはまさに職人技でした。経理の仕事をするには簿記と算盤が不可欠で、経理事務員の右手の中指にはペンだこがありました。

 昭和の後半には、会計事務所にコンピューターが導入され、「コンピューター会計」と看板を掲げて、中小企業の記帳代行を積極的に請け負うようになっていきました。

御社では、伝票をいつまで手書きしていましたか?

 

平成時代の経理に一気に普及した「パソコン会計」

 平成元年に消費税が税率3%でスタートしました。取引ごとに本体価格と区分して処理しなければならない消費税が、経理の仕事を複雑にしたのは言うまでもありません。

 この煩雑な消費税の問題を解決するために、中小企業の経理に一気に普及したのがパソコン会計でした。パソコン会計が経理社員に代わって、面倒な消費税の処理をこなしてくれたのです。社内のウィンドウズパソコンが有線LANで接続され、営業部門の販売管理ソフトと経理の会計ソフトが連動し、経理の仕事は楽になっていきました。

 また、平成の時代はバブル崩壊後の失われた30年とも言われるほど景気が悪く、雇用に関しては就職氷河期でした。会社はこの時期、新入社員の採用を控える傾向にあり、経理部においても正社員の雇用が減少していきました。その一方で増えたのが、派遣社員やパート社員でした。経理を中心とした事務部門においては、4割以上が非正規社員になっていきました。

御社が経理部で最近採用したのは、正社員ですか、非正規社員ですか?

 

令和時代の経理の仕事は「自動化」が進む

 現在の令和において、コロナ禍の影響でテレワークが普及しています。会社がテレワークをするうえで紙やハンコでは仕事がまわらなくなり、ペーパーレス化が求められます。

 令和2年に業務効率の向上とテレワークの促進を目的に、電子取引が認められるようになりました。令和4年からは電子帳簿保存法が改正され、伝票や帳簿、請求書や領収書のペーパーレス化が促進されていきます。
 さらに、令和5年からは消費税のインボイス制度が導入されます。会社が発行するすべての請求書や領収書に会社固有の番号(登録番号)を付すことが義務づけられ、経理がその番号を毎回確認しなければならなくなります。経理社員が1枚1枚登録番号を照合してから会計処理することは実務上不可能ですので、政府(デジタル庁)はこのインボイス制度導入時に電子インボイス(請求書のデジタル化)に移行する方針です。

 電子インボイスになれば、会計処理を自動化できるだけでなく、振り込み処理や入金確認処理についても大幅な効率改善が見込まれています。こうしてデジタル化が進みペーパーレス化が実現することにより、経理の仕事は自動化されていくことになります。

 令和の時代は、デジタル化によって経理を事務作業から解放してくれるのです。

御社の経理はデジタル化をはじめていますか?

 

これからの経理の仕事と役割の変化

 昭和、平成、令和の各時代の経理の仕事を見てきました。平成を挟んで30~40年間で、経理の仕事は大きく変わろうとしています。御社の経理は、時代の流れについていっているでしょうか。

 道具が変わると、仕事が変わります。
 ペンと算盤の昭和の時代は、記帳事務が経理のほぼすべての仕事でした。
 パソコン会計の平成の時代は、伝票入力が経理の主な仕事になりました。
 電子取引の令和の時代には、事務作業は経理の仕事からなくなります。

 仕事が変わって、喜ぶ人と悲しむ人がいます。事務作業に取られていた時間を業績管理や資金繰り、財務管理に使えるようになり、キャリアアップできると喜ぶ人は少数派です。一方で、何年も事務作業に専念してきた多くの経理事務担当者は、仕事をコンピューターに奪われることになるでしょう。

 事務作業だけをしてきた人に、いきなり管理業務はできません。残念ながら、スキルは一朝一夕には身につきません。研修教育と実務経験を積まなければならないのです。デジタル化を意識して、経理部員のスキルアップを進めている会社は多くありません。経理事務がなくなったとき、社員が行き場を失わないように早めに準備をしてください。

御社の経理はデジタル化した後、次の仕事をする準備ができていますか?

【参考】
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」閣議決定資料(令和3年6月18日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20210618/siryou1.pdf

 

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