令和4年5月、国税庁から「会社標本調査結果(令和2年度分)」が公表されました。2020(令和2)年度の日本全国の会社について、決算申告の統計資料を取りまとめたものです。
対象となっているのは、2020年4月~2021年3月の間に終了した事業年度の会社の決算申告データです。コロナ禍における会社の決算の状況が示されています。
意外だったのが、法人税を払っていない欠損法人(赤字または繰越欠損金の控除により所得なし)の割合が、全体の62.3%(前年度61.6%)と、それほど増えていないことです。
コロナ対策の「持続化給付金」や「雇用調整助成金」、「家賃支援給付金」などが各社の赤字を補填したと考えられます。
一方で、大きな変化が見られたのが「交際費」です。前年度と比較した「交際費」の支出額は、1年間合計で約1兆円減少しています。
そこで今回は、コロナ禍での会社の「交際費」の使い方を確認し、今後の「交際費」の配分を見直す‶3つのポイント″をお伝えします。
御社はコロナ禍で、1年間の「交際費」をいくら使いましたか?
①「交際費」の予算を見直す
ご存知のとおり法人税法上の「交際費」は、接待を伴う飲食代、ゴルフや旅行の費用のほかに、お中元・お歳暮などの贈答品代が主な内容です。
コロナ禍において、テレワークが増え、訪問営業や出張が減り、飲食店は営業自粛を要請されたため、接待をする機会は格段に減りました。
「会社標本調査結果(令和2年度分)」の統計で確認すると、会社の交際費の支出額は、コロナ前と比べて金額にして約1兆円、比率では24.9%減少しました。
コロナ禍における会社の交際費支出額ですが、金額ベースで見ると、リーマンショック(2008年)や東日本大震災(2011年)の時期とほぼ同程度です。
つまり、今回のパンデミックは、世界的な金融経済恐慌や大災害と同等のインパクトを会社経営に与えていることが、「交際費」という面から見ても言えるでしょう。
社長はこの機会に、経理に指示して、直近3期分の交際費の年間支出額とその内訳明細を確認しておいてください。
接待飲食代、ゴルフ代、贈答品代など、それぞれの支出額の増減と構成比率の変化を見比べてみます。
コロナ禍で交際費の使い方がどのように変わったのかを数字で検証することにより、コロナ後の交際費予算の見直しをしておきましょう。
御社の交際費支出額はコロナ前後でどのくらい変わりましたか?
②「交際費」のコストパフォーマンスを確認する
自社の「交際費」の予算を検討するときに、他社はどのくらい交際費を使っているのかが気になるところです。
交際費の支出目的を「売上を獲得するため」と考えると、「交際費」の金額を売上高と対比させることにより、交際費のコストパフォーマンスが把握できます。
新型コロナウィルスが拡大し、経済が停滞した2020年度の全国の会社の「交際費」の支出額を、売上高10万円あたりに換算すると219円(前年度は265円)でした。
つまり、売上高に対する交際費の割合は約0.2%であったということです。
日本の会社は、10万円の売上を稼ぐために、平均して約200円の交際費をかけているということを示しています。
交際費の支出額は、会社の規模によって異なります。
社長であればおわかりのとおり、「交際費」は原則として法人税法上の経費である「損金」に算入されません。
例外として資本金1億円以下の中小企業は、年間800万円までの「交際費」は損金算入が認められています(大企業であっても接待飲食費は50%損金算入可)。
会社としては、税金を負担してまで「交際費」を使おうとはしませんから、中小企業は年間800万円の範囲に収めるようにし、大企業は極力、「交際費」の支出を抑制する傾向にあります。
「会社標本調査結果(令和2年度分)」の統計で、売上高10万円あたりの「交際費」を資本金規模別に比較すると、次のようになっています。会社の規模が大きくなるほど、売上あたりの「交際費」の額が減少していくのがわかります。
御社は、売上高10万円を稼ぐのに交際費をいくら使っていますか?
③「交際費」を同業他社と比較する
「交際費」の支出額は、業種によっても違ってきます。
コロナ禍にあって接待も多少は変化したと思いますが、業種別の交際費支出の傾向は変わっていません。
売上高10万円あたりの交際費支出額を業種別に比較してみると、多いのは建設業(629円)、不動産業(431円)、サービス業(397円)です。
新規顧客の割合が高く、案件あたりの単価が高額になるほど、受注獲得の難易度が高くなり、「交際費」の支出額が増えるようです。
逆に、製造業、卸売業、小売業は、「交際費」の支出額が少なく、いずれも売上高10万円あたり100円台で推移しています。
既存顧客との安定取引が中心の業種や、取引単価が少額な業種では、接待に経費を掛けずにすみます。
コロナ禍で、ほぼすべての業種で「交際費」の支出額が減少しました。しかし一業種だけ、売上高10万円あたりの交際費支出額が増加したのが「料理飲食旅館業」(2020年度:555円、2019年度:460円)です。
料理飲食旅館業も「交際費」支出額は減少しているのですが、それ以上に売上の落ち込みが大きすぎたので、いたしかたないところでしょう。
御社は、同業他社と比較して「交際費」は多いほうですか?
コロナ後の「交際費」予算を再検討する
今回は、コロナ禍における「交際費」の支出状況の変化について説明しました。
統計と比較しながら、次の3つの観点から自社の「交際費」の使い方を点検してみてください。
①直近3期分の「交際費」の支出内訳にどのような変化があったか?
②直近3期分の売上に対する「交際費」の配分割合の傾向はどうか?
③同業他社と比較して「交際費」の支出額は多いか、少ないか?
今後、コロナが収束に向かい、営業活動も徐々に再開していくことでしょう。
その前に、コロナ前後での「交際費」のコストパフォーマンスを再度検討したうえで、営業部門とコロナ後の交際費の使い方を話し合って、具体的な予算を組み直しておきましょう。
「交際費」の支出状況に変化のあるときには、必ず数字を見て結果を検証して、販売戦略に合わせて経費の使い方を見直すと、将来の業績が改善していきます。
御社の営業部門は、交際費を効果的に使っていますか?
【資料・参考】
「会社標本調査結果(令和2年度分)税務統計から見た法人企業の実態」(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/kaishahyohon2020/kaisya.htm