6月は株主総会が多い月です。
日本の上場企業は3月決算が多いため、毎年6月の後半に株主総会が集中しているからです。
個人で株式投資をしている社長はたくさんいます。
しかし、投資している企業の株主総会に出席している社長や、決算書を分析している社長はあまりいません。
会社の規模が違っても、同じ経営者として、会社の決算内容の報告の仕方は大変参考になります。
そこで今回は、上場企業の株主総会において経営者が決算についてどのように報告しているのかを説明します。
御社は、前期の決算について、株主や銀行にどのように説明しましたか?
「損益計算書」で企業活動の結果を数字で説明する
どの上場企業も、株主に対して最初に説明するのが業績の結果数字です。
売上高が前期からどのくらい伸びているのか、効率よく利益を稼いでいるのか、投資家が最も気にする数字だからです。
例えば、株式会社ニトリホールディングスの「2022年2月期決算説明会」では、最初に「35期連続増収増益達成」のタイトルで過去からの売上高と経常利益の数字がグラフで説明されました。
そのあとに、決算数字に至った経緯について、企業活動の成果を分析し数字で説明されます。
業績が良かった会社と悪かった会社では、当然ながら説明の内容が異なります。
業績が良かった会社は、成長戦略に基づいて、商品開発、商圏拡大、海外進出などの成果を事業分野別に数字で分析し報告しています。
最近では、DX (デジタルトランスフォーメーション)による新しい事業サービスの展開や、大幅な効率改善の成果を報告している会社も増えています。
一方、業績が悪かった会社は、経営が悪化した要因を説明するだけではなく、その状況にどう対処したかを説明しています。
損失を最小にするためにどういう手を打ったかです。
大幅なコスト削減の実施、赤字事業からの撤退や業態変更など、数字とタイミングを見ながら苦渋の決断をしたことが伝わってきます。
企業経営者が、コロナ禍でどのような判断をしたのかは、とても参考になります。
御社では、業績の変動要因を数字で詳しく分析していますか?
「貸借対照表」で財務状態と経営効率を説明する
次に、貸借対照表で資産・負債などの財務状態が説明されます。
ここで使われるのは要約版の貸借対照表です。
細かい勘定科目は省略して、「資産(流動・固定)」、「負債(流動・固定)」、「純資産」の合計額で全体の財務構成をとらえます。
主に、負債比率(負債合計÷純資産合計)、自己資本比率(純資産合計÷総資産合計)で財務の安全性が評価されます。
また、損益計算書の業績(売上・利益)と総資産を比較して、経営効率を説明します。
会社が保有する財産を効率よく活用して業績を上げているかが重要視されるからです。
代表的な指標が次の2つです。
・総資本回転率 = 売上高 ÷ 総資本
総資本(=総資産)を使って売上を何回転させたかを表す指標。
製造業で約1回転、卸売業・小売業で約2回転が目安。
・総資本利益率(ROA) = 利益 ÷ 総資本
資本を運用してどのくらい儲けたのかという資本効率を表す指標。
ROA5%以上であれば良好とされる。
多くの資産を必要とする製造業は低く、資産の少ないサービス業は高くなる傾向がある。
社長としては、貸借対照表で自社の財務基盤の健全性を点検するとともに、総資本を業績(売上・利益)と対比させて経営効率を意識するようにしましょう。
御社は、効率よく経営できる財務状態を維持していますか?
「キャッシュフロー計算書」で資金の流れを説明する
3つめの財務諸表がキャッシュフロー計算書です。
1年間におけるキャッシュ(現預金)の増減の内訳が示されています。
これも株主総会の説明で使われるのはキャッシュフロー計算書の要約版で、次の3つに区分されて資金の動きが表示されます。
・営業キャッシュフロー
本業で稼いだキャッシュの増加額を示す
・投資キャッシュフロー
設備投資やM&A投資でかかった支出額を表示
・財務キャッシュフロー
銀行借り入れ(返済)や増資などの資金調達額を示す
たとえ売上や利益が順調に伸びていても、営業キャッシュフローが増えていない場合には、その原因の説明が欠かせません。
資金の裏づけがない利益は、資金繰り上の疑念が抱かれ、株主に信用されないからです。
また、上場企業の年間の投資金額は、営業キャッシュフローの範囲内に通常収まっており、投資規模の限度額が設定されていることがわかります。
中小企業では、キャッシュフロー計算書をあまり活用していない会社もありますが、経理に指示して、決算のときに損益計算書や貸借対照表と一緒に出力してもらい、社長が資金の動きをつかめるようにしてください。
1年間の資金の流れを、キャッシュフロー計算書で説明できますか?
上場企業の決算説明の仕方をお手本にする
今回は、上場企業の株主総会での決算説明の仕方について、概要を説明しました。
使われている財務諸表も詳細なものではなく要約版なのでコンパクトによくまとまっています。
短時間で大枠をつかむのに適しており、なんといっても社長向きです。
決算説明会の資料は上場企業のホームページ(IR情報)に掲載されています。
社長個人で投資している会社だけではなく、同業種の企業の決算説明資料をダウンロードして見るようにしてください。
業界特有の課題への取り組み状況や、成長分野への将来的な投資方針など、参考になる内容が含まれています。
さらに、複数社の決算説明資料を見比べてみると、業界の動向がつかめます。
上場企業の経営者の経営戦略や財務戦略、失敗したときの損切りの仕方などが学べます。
財務や会計の本を読むよりも、実践的な勉強ができるので、おすすめです。
上場企業の決算説明資料をお手本にして、自社の決算内容を説明できるようになりましょう。
御社は、どの上場企業の決算説明の仕方をお手本にしますか?
【参考】株式会社ニトリホールディングス 2022年2月期 決算説明会資料
https://www.nitorihd.co.jp/ir/items/NITORI%20FY2021_4Qfinancial%20%20report.pdf