menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

交渉力を備えよ(4) 勝海舟の瀬戸際外交。脅しは本気でなければ通じない

指導者たる者かくあるべし

 「勝(海舟)は薩長の手先なのではないか」という疑念は、幕臣の中に根強くあった。
 
 確かに勝は西郷隆盛との談判で平和裏に事態を打開したいとの気持ちを強く持っている。だが、相手が武力に訴えるなら応じようじゃないかとの気概もある。武士なのである。
 
 前将軍の徳川慶喜から幕府軍を預かった当初、「戦(いくさ)になりゃ勝てるさ」と幕閣たちを前に主張している。
 
 新政府軍が駿府から箱根を越えるには、富士川までの間に山が海に迫る狭隘な道を通らねばならない。敵をここにおびき寄せて、幕府側が圧倒的戦力を持つ海軍の艦隊で艦砲射撃を加え、退却する敵に先回りして艦隊から兵を揚陸する。挟撃して撃滅する作戦だ。
 
 その勢いで艦隊を一気に大坂に差し向けて新政府軍を混乱に陥れる。「勝算はある」と勝は力説している。
 
 西郷にも江戸城内での軍議は聞こえていたであろう。だからこそ「幕府は海軍で勝てるが自重している」という書に西郷は逆上し、そして談判に応じる姿勢を見せたのである。
 
 究極の手は封じつつも「そっちがやる気ならこちらもやる」との気合は、剣術の間合いそのものだ。強がりでは通じない。実行の裏付けがあってこそ、相手は恐れる。弱気で交渉に臨めば譲歩を迫られるばかりとなる。
 
 さらに新政府軍が江戸に近づくと、勝は、江戸焼き払いを決意する。自ら江戸中を駕籠(かご)で駆けまわり、火消しの棟梁、侠客の親分たちに、火付けの策を持ちかける。
 
 「勝さんに直々に頼まれたんじゃ断れねえ、合点承知だ」。意気に感じて火消したちは市中各所に散らばり待機した。
 
 戦史をひもとけば、さかのぼること半世紀前にナポレオン率いるフランス軍を迎え撃ったロシア軍がモスクワを焼き払い、勝利につなげた先例がある。(当連載「万物流転する世を生き抜く<27>」参照)
 
 勝はフランス軍事顧問団から聞いていたのかもしれない。
 
 江戸市民を房総へ逃すための大量の船を用意するなど計画は周到に準備された。国際外交場面で多用される瀬戸際戦術(ブリンクマンシップ)における脅しは単なるパフォーマンスでは効果がない。本気度が問われる。
 
 「さあ、来い」。江戸焼き払いの準備が整い、勝は品川に入った西郷に急ぎ手紙を書いた。
 
  「面談いたしたい」   (この項、次回に続く)
 
 
 ※参考文献
 
『氷川清話』勝海舟談 江藤淳・松浦玲編 講談社学術文庫
『新訂 海舟座談』巌本善治篇 勝部真長注 岩波文庫
『勝海舟』松浦玲著 講談社学術文庫
『一外交官の見た明治維新(下)』アーネスト・サトウ著 坂田精一訳 岩波文庫
 
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交渉力を備えよ(3) 相手の要求を事前につかみ、意思を伝える前のページ

交渉力を備えよ(5) 交渉を動かすのは志と信頼次のページ

関連記事

  1. 逆転の発想(18) 熱血指導だけでは名門チームは蘇らない(プロ野球監督・星野仙一)

  2. 危機を乗り越える知恵(2) 敗戦に学ぶ家康

  3. 万物流転する世を生き抜く(30) 英雄の嘆き

最新の経営コラム

  1. 第19話 男女の賃金格差の開示義務化と女性の活躍推進の必要性

  2. 第60回 使い方を決めるのは消費者

  3. 第37回「日本が唯一『女形』」

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 税務・会計

    第2号 会社と個人のバランスをどう取ればいいか
  2. 人間学・古典

    第50講 「言志四録その50」 心を得るものに至りては、口言う能わず。
  3. マネジメント

    第114回 『女性の戦力化と登用』
  4. 健康

    第45回 宝乃湯温泉(兵庫県) 名湯・有馬温泉に負けない濃厚な黄金湯
  5. 社員教育・営業

    第77回「聞き手の心に届く話し方」
keyboard_arrow_up