鬼平に学ぶ、胸打つ言葉
こんにちは。室温は暖かくとも手先が冷える頃となりました。体調管理により一層、気を配らなければいけませんね。お変わりないですか。
この原稿を書いている今日(1/25)は作家・池波正太郎さん(1923~90年)の生誕100年となる誕生日であると、新聞にありました。
池波正太郎さんといえば、『鬼平犯科帳』『剣客商売』『真田太平記』など戦後を代表する時代小説・歴史小説家として知られています。このコラムをお読みの方の中にはきっと大ファンを自認する方が大勢いらっしゃるでしょう。
末席を汚す立場ではありますが、わたしも学生の頃から愛読しており、中でも『鬼平犯科帳』や『仕掛人・藤枝梅安』シリーズは文庫本の表紙がボロボロになるまで何度も読み返してきました。
鬼平こと長谷川平蔵は部下である火付け盗賊改め方の面々に、折に触れ、温かいねぎらいの言葉をかけます。さらには取り押さえた盗賊たちにさえ、その心情をおもんぱかる言葉をかけ、再生を誓わせます。
「人間というやつ、遊びながらはたらく生きものさ。善事をおこないつつ、知らぬうちに悪事をやってのける。悪事をはたらきつつ、知らずしらず善事をたのしむ。これが人間だわさ」
(鬼平犯科帳 第二巻 『谷中いろは茶屋』)
「死ぬつもりか。それはいけない。どうしても死にたいのなら、一年後にしてごらん。一年も経てば、すべてが変わってくる。人間にとって時のながれほど強い味方はないのだ」
(鬼平犯科帳 第二巻『妖盗葵小僧』)
「浮浪の徒と口をきいたこともなく、酒ものみ合うたこともない上ツ方に何がわかろうものか。何事も小から大へひろがる。小を見捨てて大が成ろうか」
(鬼平犯科帳 第十四巻 『殿さま栄五郎』)
来たる2月・4月には生誕100年を記念してつくられた映画『仕掛人・藤枝梅安』が2作連続して公開されるようです。楽しみですね。
ちなみに、わたしの愛犬の名前はしょうたろう。池波正太郎さんからその名をいただきました。
司馬遼太郎からの手紙
池波正太郎さんは大の手紙好きとしても知られています。中でも有名なのは、年が明けた1月からもう翌年の年賀状の下絵を描き、夏前には実際に書き始めていたというエピソードです。
その一方で、同じ年に生まれた国民的作家・司馬遼太郎さん(1923~96年)と手紙のやりとりをしていたことは、あまり知られていないようです。
中でも司馬遼太郎さんが、「おれ、大好きになっちゃったです」「御作やっぱりほうぼうで好評ですぜ」と、屈託のない言葉で池波さんとその作品への敬愛の念をつづっている様に驚かされます。
司馬遼太郎さんといえば、わたしの頭にはシリアスな表情を浮かべる堅物というイメージがありました。同じ時代に生きる作家同士、まして男同士であり、嫌が応にもライバル視される人物に対して、「おれ、大好きになっちゃったです」と素直な心情を吐露できるなんて、なんて愛らしい方なのでしょう。
そして、作家・司馬遼太郎さんにそこまで胸襟を開かせる池波正太郎さんの器の大きさに、あらためて感嘆しないわけにはいきません。
20年ほど前、東京・浅草にある池波正太郎記念文庫に足を運んだことがあります。膨大な著作のほか、自筆原稿、自筆スケッチ、万年筆やパイプなどの遺愛品が展示されており、書斎を復元したコーナーもありました。
近くには池波正太郎さんが足しげく通ったという蕎麦屋や鰻屋もありました。機会がありましたら、出かけてみてはいかがでしょうか。