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マネジメント

第73回 『おカネとヤル気の法則』

社長の右腕をつくる 人と組織を動かす

  外資系企業を渡り歩いたというと、それまでを上回る報酬をヘッドハンターに提示されて、気持ちが動いた…と、とらえられることも少なくない。

 だが、私の場合で云えば、提示された経済的条件を第一に、転職を考えたことは一度もなかった。
 それまでの仕事でもそれなりの報酬をいただいていたということもあるが、それよりも、気持ちよく仕事ができる環境にあることや、働きがいがある仕事、私なりに人生の目標にしっかり向かっていると実感できる仕事を手にする方が、より、大切に思えたからだ。

 経営者としての立場で、おカネの問題で大きな教訓を得たことがある。

 25年以上も前の話だが、当時、私は、サンフランシスコに本社のあるコカ・コーラ・カンパニー・オブ・カルフォルニアに勤務していた。
 ある経営会議の席上で、社員のモチベーションをどう高めるかという議論になったとき、幹部社員の中から、「我社にも、インセンティブ・システムの導入を検討しては」という声があがった。
 インセンティブ・システムとは、≪よい仕事をして業績を上げた社員には、特別ボーナス(おカネ)で報いる≫ということだ。

 デール・アレクサンダー社長の答えは、「Your incentive is in your pay-check.(そもそもヤル気とは、日常の仕事の中に組み込まれているべきものだ。カネをちらつかせてあおるものではない)」というものだった。
まさに、正論である。

 おカネは人生において、無視できない。そして無視すべきではない重要なファクターだが、人の心まで買うことはできない。という限界つきのものであることを意識したい。

 私自身は、ジョンソン・エンド・ジョンソンや、サラ・リー・コーポレーション、あるいは、ホールマークなどで社長職をしている間、少なからぬ給料に加えて、ストックオプションやパフォーマンス・インセンティブなど、数々の金銭的ご褒美をいただいた。
 それ自体はけっこうで、ありがたかった。だが、「にこんなものなくとも、自分は全力投球するのに」と何度となく、胸の中でつぶやいたものだった。

 

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