ある会社が上場した際、売上が150億円ありましたが、そのうち実に146億円がここでお話をします循環取引によって計上した架空の売上だったという話もあります。
実は、私自身も、今から10年以上前に上場を目指した会社のナンバー2の際、上場コンサルと名乗る人から、キャッシュで5000万円用意すれば、売上を50億円にすることが出来るから、キャッシュを用意してくださいといわれた経験があります。
売上を上げたいという思いが強かったため、当時のトップはその話に乗ると考えていたのですが、一応、私は会計士でもあり、この手の売上はすぐにばれてしまうことを知っていた為、未遂に終わりましたが、あのまま、50億円にして上場したら、金融商品取引法(以前は、証券取引法)違反で起訴されていたかもしれません。
5000万円が50億円になるという話。これがこれからお話する循環取引によって可能になるのです。
循環取引とは、関与する複数の企業・当事者が互いに商品の売買やサービスの提供等の相互発注を繰り返すことで売上高を計上し、最初の売主が最終の買主と同一になる取引です。
A社(当社)がB社に1000で販売し、B社が1000で仕入れたものをC社に1200で販売。C社は1200で仕入れたものをA社(当社)に販売。A社に販売した時点で、循環取引になります。
循環取引は、経営者あるいは管理者により意図的に仕組まれた取引のため、実際に物が動いていたり、納品書等の証憑が完備されているなど、正常な取引条件を備えているように見える場合が多いことが最大の特徴です。
そして、取引先は実在することが多く(有名な一部上場企業も入っていることも多い)、資金決済は実際に行われることが多く、そして会計記録や証憑の偽造または在庫等の保有資産の偽装は関係先と口裏合わせをしつつ徹底して行われることが多いのです。
しかし、この流れはいずれ破綻します。介在している会社の誰かが資金決済が出来なくなるのです。
ちなみに、資金が流れていない場合でも、売掛金や買掛金が異常に多額になる為、発覚には時間がかかりません。
循環取引に類似していますが、循環取引ではない取引もあります。
たとえばメーカー→卸売業→小売業→消費者という取引では、参加業者による一定期間の商品在庫の保有は一種の与信となり、その対価としてマージンを受け取ることがあります。
両者の主な違いは何でしょうか。
販売・仕入取引における取引の起点と終点の業者の有無、そして架空利益を計上する意図の有無等です。
なお、実際の循環取引は、複雑なものの流れと多数の当事者が関与することでその連鎖が果てしなく続くため単純なものではないことが一般的です。取引先の協力なくして出来ない循環取引は、ある意味、日本的な不正になります。
循環取引の恐ろしいところは、まったく知らず知らずの内に取引に加わっている場合があることです。
また、関係者に一部上場企業も含まれているなど、安心して、普通に取引をしていることもあるくらいです。
循環取引に巻き込まれないようにすることも今後は非常に重要となります。
そのためには、循環取引の特徴を理解し、異常性に着目した分析を充実させるなどの手法で不正の端緒を見つけ出し、最悪の事態に発展しない対応が必要となります。
ある担当者は、取引額が膨らんでいることからいずれ循環取引が破綻することを予想していたにもかかわらず、循環取引に参加している他の会社に重大な損害を及ぼすことから、循環取引を止めることができなかった〈正当化〉とされています。
不正に共通することは、タバコと同じで、一度、手をつけたら、なかなか止められないのです。
ですから、第三者からの厳しい指摘がどうしても必要になってくるのです。
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