1月20日中国国家統計局の発表によると、2010年中国のGDPは前年比10.3%増の39兆7983億元にのぼり、ドル換算では5兆8895億ドルに相当する。それで日本の経済規模が中国に逆転されることは確実となった。
実はもう1つの日中逆転があり、それは国の税収だ。中国税務当局の発表によれば、2010年中国の税収は前年比22.6%増の7兆7390億元にのぼ る。増値税(付加価値税)の輸出還付分7328億元を差し引くと、実質の税収は7兆62億元となり、昨年末の為替レート1元=12.3円で換算すれば、 86兆円に相当する。日本の今年度予算では税収は37.4兆円なので、実に日本の2.3倍になる。
中国の税収急増は政府財政収支の黒字転換をもたらすのみならず、景気対策としての財政出動、海外ODAの増加などにも余力が出てきている。国にとって、GDPの数字より税収の数字の方は、実質的な意味が大きい。
しかし、中国の税収急増は喜ばしいことである一方、問題も見えてくる。それは次の3つの数字の比較からわかるように、国民の税負担が重すぎることだ。
3つの数字とは、GDP成長率、税収伸び率、国民所得伸び率である。2004~10年のこの7年間の平均値を比較して見よう。
まずはGDP成長率。04年10.1%、05年11.3%、06年12.7%、07年14.2%、08年9.6%、09年9.2%、10年10%(予測値)、平均11%。
同時期の税収の伸び率はそれぞれ20.7%、19.1%、18.6%、33.7%、18.8%、9.8%、22.6%で、平均20.5%。GDP成長率の約2倍に相当する。
一方、04~09年国民の可処分所得の伸び率は、都市部住民の場合、それぞれ7.7%、9.6%、10.4%、12.2%、8.4%、9.8%で、平均 9.7%。農村部住民の場合、それぞれ6.8%、6.2%、7.4%、9.5%、8.0%、8.5%で、平均7.7%。都市部と農村部を合わせた全国平均 の所得伸び率は8.7%にとどまり、同時期のGDP成長率11%に遥かに及ばず、税金の過剰徴収は原因であるという受け止め方も成立する。
要するに、税収急増の裏には、国民は高度成長の恩恵を十分に享受していない事実が浮き彫りになり、不平不満も募っている。税収急増は良いことかそれとも悪いことか?社会の富をいかに公平に分配するか?いま中国では「税収大論争」が起こっている。
中国政府もこうした世論の動向を無視できず、今年は個人所得の減税に踏み切ると、筆者は見ている。政府の減税対策はもちろん国民の不平不満を和らげる思 惑があるが、その一方、所得減税で個人消費を刺激し景気浮揚の効果も狙っている。いわゆる「一石二鳥」の対策である。