6月上旬、筆者は中国経済実態調査のため、北京市を訪れた。不動産分野の変調ぶりを目撃し、今年は不動産バブルが崩壊し始める転換点になるのではないかと予感している。
今年に入って、北京市の新築住宅販売の不調が目立つ。販売面積も販売金額も下落傾向が続いている。筆者はCBD(中心業務地域)エリアにある数ヵ所の不動産営業所に足を運んでみると、昔のように大勢の顧客で賑わう面影はなく、まばらな様子が目に入る。従業員に景気状況を尋ねると、ほとんどは「今年は厳しい」と言う返事が返ってくる。
現場の厳しい実情を裏付けるように、政府発表の統計データも悪い。
国家統計局の発表によれば、今年1~5月中国住宅の販売面積が前年同期比9.2%減少、オフィスビル販売面積が5.8%減少となっている。住宅とオフィスビルの販売金額もそれぞれ10.2%減、14%減となっている。
今年5月、中国100都市住宅販売価格も前月比0.32%下落した。これは2012年6月以降、23ヵ月連続で価格上昇を経験した後、初めて下落に転じたことである。6月も前月比0.5%下落し、下落幅が拡大している。
不動産販売の現場状況から見ても、現場の実態を反映する国家統計局のデータから見ても、今年は長年にわたって形成されてきた中国不動産バブルは、崩壊し始める転換点になる確率が極めて高いと言わざるを得ない。
ますます高まる不動産バブル崩壊の懸念につき、北京市の「不動産王」と呼ばれる潘石屹・SOHO中国会長は、悲観論を隠さず、5月末に自身のブログで次のように述べている。
「私は中国の不動産分野はタイタニックのようだと思う。間もなく前途に横たわる氷山にぶつかるだろう」と。
一方、「不動産投資の神様」や「指南役」と呼ばれる香港最大の財閥李嘉誠・長江実業総帥は昨年以来、相次いで中国各地の不動産物件を売却し、イギリスなど欧州公共事業のインフラ整備に投資している。
悪いニュースはそれだけではない。今年に入って、債務超過でデフォルトに陥った不動産業者は突然、「夜逃げ」したり行方不明になったりするケースが続出。経営破たんに陥った不動産企業の数は全国各地で毎月2桁にのぼり、業界全体に動揺が広がっている。
中国の不動産バブル崩壊に関する悲観論は国際金融機関の間にも広がっている。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは中国の不動産開発業者のクレジット見通しを約1年半ぶりに「ステーブル(安定的)」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げた。英バークレイズ銀行やスイスのUBS銀行なども中国不動産バブルの崩壊リスクを懸念している。
不動産と建設業を合わせて、中国のGDPの約15%を占める。鉄鋼や建材を含むと、そのシェアはもっと大きい。不動産バブルが崩壊すれば、地方債リスクやシャドーバンキング(影の銀行)問題が表面化し、金融危機に繋がる可能性が高い。実体経済へのマイナス影響の連鎖反応も避けられない。
バブルがいったん形成すれば、はじけるのは早晩の問題である。いま、中国政府が考えている対策は、いかに不動産バブルを緩やかに破裂させ、疾風暴雨のようなバブル崩壊のシナリオを防ぐかである。そのため、これまで不動産バブルの抑制に重点を置いてきたマクロコントロール政策は今、バブル崩壊予防に重点をシフトしている。
要するに、われわれは中国不動産バブル崩壊のリスクに注意を払わなければならない。中国政府は不動産分野のハードランディングを防げるかどうか。2017年前後には山場を迎えるだろう。