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採用・法律

第37回 『インターネット上の誹謗中傷への対応』

中小企業の新たな法律リスク

 建設関係の会社を営む野田社長が、自身が設立した小さな工務店の問題を相談しに、資料を沢山持っていらっしゃいました。
 
* * *
 
野田社長:私の設立した工務店の悪い評判が、インターネット上の口コミサイトに、匿名で書き込まれているのを発見しました。私の持ってきた資料を見てください。「押し売りの極み」とか、「金儲け第一主義」とか、「安かろう悪かろう」、「悪質工務店」、「詐欺商法」、「社長は馬鹿だ」、etc.・・・・。
 
賛多弁護士: これはひどいですね。
 
野田社長:あまりにも事実無根の内容なので、どこかよその工務店さんと間違えられているのではないかと思います。または、競合他社が我が社を貶めるため、社員に誹謗中傷を書き込ませているのかもしれません。
 
賛多弁護士:御社は大変良心的な工務店で、評判も良くていらっしゃるので、競合他社が妬んで、御社の足を引っ張ろうとしているのかもしれませんね。野田社長はどのような対応をご希望ですか。
 
野田社長:まずはこのような事実無根の誹謗中傷を削除していただきたい。そして、もしも書き込んだ人物が、競合他社の関係者なのであれば、損害賠償請求をしたり、刑事上も罰したりしていただきたい。
 
賛多弁護士:わかりました。それでは、早急な対応が必要です。ここで、書き込んだ人物を、プロバイダ責任制限法上は「発信者」といいます。野田社長のご希望は、①削除請求と②発信者情報開示請求、発信者の属性によっては、③発信者に対する損害賠償請求や刑事告訴ということになりますね。
      
野田社長:そうそう、その通りです。分かりやすく整理してくださりありがとうございます。
 
賛多弁護士:まず、①の削除請求ですが、①だけを求める場合は、最初に口コミサイトの運営者に対し、①を行います。そして、任意の削除がなされなかった場合には、裁判手続を利用して削除を求めていくことになります。もっとも、今回は②の発信者情報開示請求を予定していますので、②を行った後に、改めて①を行います。
 
野田社長:それはどうしてですか。
 
賛多弁護士:問題の書き込みが削除されると同時に、その書き込みが行われた際の通信ログ(インターネットサービスプロバイダの通信記録)も消去される危険性があるからです。なお、通信ログは、プロバイダによって期間が異なり、3か月又は6か月程度しか残っていません。
 
野田社長:なるほど。だから、賛多弁護士は、「早急な対応が必要」とおっしゃったのですね。
 
賛多弁護士:そうなのです。そして、②の発信者情報開示請求ですが、ごくごく簡単に説明しますと、
(1)コンテンツプロバイダ等に対して②を行い、IPアドレス、タイムスタンプ等の開示を受ける。
(2)IPアドレスを元にインターネットサービスプロバイダを特定し、当該インターネットプロバイダに対して②を行い、発信者(プロバイダ契約者)の情報開示を受ける。という手順を踏むことになります。先ほどの通信ログは(2)の段階で保存されている必要があります。こちらも、発信者情報が任意で開示されない場合は、それぞれ、裁判手続きが必要となります。
 
野田社長:うわー。そんなに手間暇かかる上に、時間的な制約まであるのですね。裁判手続きを利用するということは、時間や費用などのコストもかかるなあ。確か、SNS上での匿名の誹謗中傷が原因で、リアリティショーの出演者が自殺した事件を受けて、総務省が何か法改正をするといっていましたよね。
 
賛多弁護士:さすが野田社長!時事問題にお詳しいですね。インターネット上で、匿名で誹謗中傷等の書き込みが行われた場合に、被害回復のために利用が必要な現在の発信者情報開示制度に関しては、様々な課題が指摘されています。そのため、現在、総務省では、円滑な被害者救済を図る観点から、プロバイダ責任制限法の改正や、新たな裁判手続の創設などが検討されています。
 
野田社長:なるほど。被害者の損害回復のための負担を軽くする法改正を早く行ってほしいです。もっとも、ご説明頂いた通り、現状では早急な対応が必要ということですので、どうぞ、賛多弁護士、手続きを進めてください。
 
賛多弁護士:承知いたしました。 では、具体的な聞き取りに入りますね。・・・。
 
* * *
 
 インターネット上の誹謗中傷に関する問題が深刻化していることを踏まえ、インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について、総務省の「プラットフォームサービスに関する研究会」(座長:宍戸 常寿 東京大学大学院 法学政治学研究科 教授)(※1)が、本年8月に「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方に関する緊急提言」(※2)を取りまとめました(※3)。
 当該提言においても、「より迅速かつ確実な被害救済のために、発信者情報開示の在り方を見直すべきである。」とされており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(座長:曽我部 真裕 京都大学大学院 法学研究科 教授)(※4)と連携しつつ、総合的な誹謗中傷対策が検討されることになっています。
 
以上
 
※1 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/platform_service/index.html
※2 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/platform_service/index.html
※3 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban18_01000092.html
※4 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/index.html
 
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 木元 有香

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