採用環境や方法はコロナ禍とデジタル化で一変しました。採用のオンライン化で何が変わるのか?元リクルートゼネラルマネジャーの曽和利光氏にお聞きしました。
■曽和利光 (そわとしみつ)氏/元リクルート人事部ゼネラルマネージャー 人材研究所代表
採用コンサルティング、面接官・リクルータートレーニング、イベント選考アウトソーシングなどの採用をすべて一気通貫で行う組織人材コンサルタント。心理学とリクルート人事部GMとして培った営業スキル・2万人以上の面接経験を融合しワンランク上の人材を採用するノウハウを大企業から中堅・中小企業まで提供する。
リクルート人事部にて採用・教育・制度・組織開発などの担当、ヒューマンキャピタルソリューショングループでの組織人材コンサルタントを経て、採用グループのゼネラルマネージャーとして最終面接官を担当する。一貫して人事畑を進み、ライフネット生命保険総務部長、オープンハウス組織開発本部長などベンチャー企業の人事責任者を歴任後、独立。主な著書に『「できる人事」と「ダメ人事」の習慣』、『知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48』(共著)、『就活「後ろ倒し」の衝撃』、音声講座『採用面接の急所』(日本経営合理化協会)がある。
採用をただオンライン化しただけでは失敗する
コロナ禍によって採用面接のオンライン化が進みました。曽和先生から見て、オンラインによって変わること、変わらないことをお教えください。
採用のオンライン化によって注意しなければならないことは、「言葉にしなければならない」ことが増えるということです。つまり直接面談した時にどことなく相手から伝わってくる表情や声のトーン、視線、ジェスチャーなどの非言語コミュニケーションというのができなくなります。
そうすることによって色んなことが起こります。例えば、感情が伝わりにくい、信頼関係を保ちにくくなる。あるいは、判断のサインもその非言語から醸し出される人となりがありますよね。そういったものに頼ることができなくなってくるわけです。また、面接する我々の意図というのも相手に掴んでもらうこともできなくなります。今まで非言語でやっていたこと、伝わっていたことを全て言語化していく必要があります。これが一番の大きな変化です。今までの面接をそのままオンライン化しただけでは失敗します。変わらないことということは言語化で得た情報からどのように人を評価していくか、そのような評価基準だったりとか、そういったこと自体はあまり変わらないと思います。
面接まで車で10分の自社より、移動時間0分の他の企業が選ばれる
オンライン面接はwithコロナの間だけのものでしょうか?アフターコロナになっても続くものでしょうか。
オンライン面接をやってみたものの元に戻したいという企業の方もいると思います。オンライン採用時代の面接術でも色々とお話させていただいたのですが、私はこれは戻らない、完全に定着すると思います。ただ、リアルの面接とオンラインの面接を併用する形だと思います。採用面接にはリアルでやらなければいけないものとオンラインでやらなくてはならないものというのがあります。今までのようにすべてリアルで面接をするということは、やめたほうがいいと思います。その理由の一つは応募者です。つまり、新卒だったら学生。中途だったら転職希望者が熱烈にこれを支持しているからです。なぜかというと色んなハードルが下がるからです。わかりやすく言えば就職活動とか転職活動のコストがとても下がるんですね。
オンライン面接はパソコンやスマホなどがあればどこでも受けられます。移動時間もありません。そうすると、自分の予定にあわせていくつも会社を受けられたり、エリアにこだわらず、関東の方が関西の企業を受けたり、また、その逆もあったり、自分の出身地の企業にも気軽にアクセスできます。自分の働く場を検討する際に色々見てから選べるということはすごく重要な価値観ですよね。自社は地元だけで採用するからと油断していると危険です。オンラインでの面接は移動時間0分です。たとえ自社までは車で10分でも他社に優秀な人材が採られてしまうことが普通に起こります。
それが実現できるのがオンライン採用面接です。それを企業がやめたらどうなるかというと、応募者が減る、なかなか採れなくなる、優秀な人材と出会える確率が下がる、受けてもらえなくなるというようなことが増えてきます。応募者が支持している以上、定着すると思いますし、やめてしまうと不利益を被る会社が多いんじゃないかなと思っております。
オンライン採用を取り入れ、徐々に広げていく
採用にオンラインを取り入れるにあたり何から始めればいいでしょうか?
採用のオンライン化で一番やりやすいのは、会社説明会をオンライン化するというのが最もやりやすいと思います。なぜならば会社説明会というのは、ある種、一方的なコミュニケーションでもいいからです。
こちら側からプレゼンテーションをする部分をカメラで動画を撮って編集したものを自社のサイトなどにアップするということなので、どの会社でも一番やりやすいです。
面接は相手があって、行ったり来たりするキャッチボールです。さらにアドリブも必要となってくると思います。
会社説明会というのは、ある程度一方的にシナリオを作ったりとか準備をしたりとかすることもできたりとかしますので、ここから始めるのがいいと思いますし、採用プロセス的でも一番最初に出てくるものだったりしますので、まずはここから始めてみて、次に面接などに広げていただければと思います。
オンライン採用は会社の生産性も高める
オンライン採用を活用する他の利点を教えてください
先ほども申しました通りオンラインの採用というのは定着します。採用環境の良い悪いはあるものの構造的に日本は人口減少と高齢化がすすむため売り手市場です。これからも人材を獲得するために、応募者の母集団を増やすためにも、ぜひ様々な形で採用担当者の方にオンライン採用のトレーニングの機会を与えてください。
このオンライン採用は言葉の通り、オンライン上で面接をやります。つまり「オンラインコミュニケーション」をするわけです。コロナ禍でデジタル化が加速し、デジタルツールはもちろん、テレワークやオンライン商談などのあらゆる場面でオンラインでのやり取りが増えてきます。採用にだけ投資したというよりは、実はオンラインを活用して会社全体の生産性とかも高まっていくのです。
これを思って考えていただければ、必要な投資だと思っていただけると思いますし、どれくらい投資すれば元が取れるのかとか、リターンが合っているのかみたいな話も考えやすいと思います。単純にオンライン採用は採用のためだけということではないということです。他にもメリットがたくさんありますので、ぜひ、会社を挙げて採用のオンライン化に取り組んでみることをお勧めいたします。※本コラムはビジネス見聞録に掲載をしたものです。