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人事・労務

第71話 優れた学卒社員が学歴差で不利にならない仕組み

「賃金の誤解」

 賃金管理研究所が提唱する職制準拠の職能給とは、仕事一辺倒の「職務給」の考え方に「仕事力の向上」という属人要素を加えて、より高い納得性と長期繁栄の好循環の実現を目指します。そのためには先ず優秀な学卒社員が学歴差を理由に不利な扱いを受けない仕組みが必要であり、それを実現する責任等級の賃金表のスタート(I等級1号)は従業員の最低賃金と定めます。
 
 この最低賃金が適用される従業員とは誰でしょうか。それは当然、最低年齢で就労が認められる中学卒(労働基準法56条)の新人となります。
 
 今ではめったにない話ですが、中学を卒業した15歳の初々しい少年が最低賃金でわが社に入社したと仮定してみましょう。高校中退者を含めて玉石混交ですから、評語A=5号昇給、評語B=4号昇給、評語C=3号昇給をルールとします。
 
yatomi71_01.jpg I等級1号で入社し、最初の昇給こそ評語B(4号昇給)としますが、翌年からは仕事を覚え、頑張り屋の彼(彼女)は低学歴とはいえ、仕事力を高め、昇給評語は連続A(5号昇給×2年)となり、入社4年目を迎えた18歳の優秀社員はI等級15号となりました。その年、高校卒18歳の新人が入社してきます。質の高い高校卒を採用したいのですから、入社時の等級号数は中学卒の優秀社員より1号高いI等級16号で採用とします。
 
 それから2年、中学卒の優秀社員は高校卒の優秀社員と共に高く評価されて20歳となり、II等級初号に昇格しました。その年、短大卒の新人を迎えます。短大卒で期待の学卒者の採用ですから、入社時の等級号数は中学卒、高校卒の優秀社員の等級号数より1号高い位置で採用します。つまり上図で分かるとおり、Ⅱ等級2号が期待の短大卒の採用初任給の位置となります。
 
 そして、2年後、中学卒、高校卒、短大卒の優秀社員が22歳となり、ともにII等級11号となった時に大学卒の新人を迎えます。期待の大学卒は11号より1号上の初任給II等級12号で採用とします。しかし入社して最初の昇給はB=4号昇給をルールとしますから、翌年23歳の時には中学卒、高校卒、短大卒の優秀(Aモデル)社員はA=5号昇給し、大学卒と同じII等級16号で並ぶことになります。
 
  言い方を変えれば、大学卒であれ、短大卒であれ、高校卒者であれ、評語Aを採り続けるほど優秀な社員は、23歳の時にII等級16号に昇給し、最低賃金からスタートし、実績を積み上げてきた生え抜きの中学卒のAモデル社員と同じ等級号数となり、差別なく同額の基本給をもらうように制度として設定されているのです。
 
 このように職制準拠の職能給では、中学卒から大学卒まで、新規学卒として入社し、高い評価を受けている優秀社員(これをAモデル社員と言います)は23歳の昇給でII等級16号に並ぶこととなり、翌年24歳の昇給からは学歴抜きの仕事力で貢献度を競い合うユニークで優れた処遇の仕組みが誕生した訳です。
 
 こうした職制準拠の責任等級制、新しい賃金制度の仕組みは黎明期の本田技研の制度として、賃金管理研究所の創立者でもある故弥富賢之によって考案されました。
 
 学歴に縛られない真の能力主義というべき賃金制度の趣旨説明をひととおり聞いた時、大きな夢を本田技研で実現しつつあった当時の本田宗一郎社長は納得せず、一段の創意工夫を指示したという伝説が残っています。そうした新しい賃金制度誕生時のエピソードと更なる進化については次回お話ししたいと思います。

 

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