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- 東川鷹年の「中小企業の人育て」
- 第6話 「パラドックス的な見方」
ある日、経理部に資産台帳があるのに対し、人事部にも人的資産台帳として、社員の入社年月や職歴、家族構成や趣味にいたるまで、それを見ればその社員の事 が判るものが“あったらいいなぁ”と思い作り始めた。
何気にそれを見た社長が、「何してんねん。」と聞いてこられたの で「人的資産台帳を作っています。これがあれば社員の事が一目でわかります。」と、ちょっと 得意げに言ったのだが、
「ほぅ、すごいなぁ・・・。 でもな、いつ使うねん?わしが一度でも社員のこれだけの詳細な事柄をお前に聞いた事 があるか?」と、言われてハッとした。
「あってもいいかもしれん。でもな、良い事は良い事か?“インプットは最小に アウトプットは最大に”が原則や。良い事がすべて良いとは限ら ん。むしろ良い事は悪い事に通ずる場合がある。
あまり使わないものを作る時間はもったいないと思わんか?そんな無駄な事をせんとってくれるか!もっと、パラドックス(逆説)的なモノの見方が 出来んといかんなぁ・・・。」
と半ば呆れられたような言い方をされた。良いと思えることが、誰にとって?何がどのように良い事なのか?それからというもの、それをやるのは、 「何のため?」「誰のため?」「その効果は?」とよく考えてから実行に移すように心がけたものだ。
また、こんな事もあった。新しい商品を導入する為に、会議にて、「この商品は導入して良いと思うか?」と皆で議論をしており、全員が揃って賛成と言ったものは、社長はあっさりと却下された。
「皆が良いと思うという事は他社も良いと思うやろ。そんなモノを商売にしても価格競争に巻き込まれるだけや。むしろ悪い(良くない)と思うモノ を売れるようにするにはどうしたら売れるかを考えてくれ?それが“経営の知恵”というもんや。」
それからというもの、何かをしようとしたときに、“良い事は良いことか?良い事は悪い事に通ずる。悪い事は良い事に通ずる”というモノの見方・ 考え方で考えるように訓練し、それを「経知経知運動」(ケチケチ・・・経営の知恵)と名づけた。
今、まさにこの考え方で“新たな発想”をする事により、他社差異化としての独自性、優位性のある付加価値が求められる時代や経営環境ではないだ ろうか。