ウェルビーイング経営とは、株主や顧客だけでなく、従業員や環境など多様なステイクホルダーの幸せを高める経営のことを指します。ウェルビーイング経営に取り組むことで、結果として企業の発展につながることが様々なデータから明らかになり、近年注目が高まっています。
さて、ウェルビーイング経営にはさまざまな取り組みがありますが、中でもわかりやすいのが、従業員のウェルビーイングに焦点をあてた取り組みです。米イリノイ大学心理学部名誉教授であるエド・ディーナー氏らの論文によると、主観的幸福度の高い従業員の生産性は平均で31%、売上は37%、創造性は3倍高いとされていますから、経営者としても取り組みがいのある施策ですよね。
ウェルビーイングとPERMA理論
従業員のウェルビーイングを考えるにあたり、参考になるのがPERMA理論です。
PERMA理論とは、ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマン博士が提唱する理論で、ウェルビーイングの5つの要素の頭文字をとって名付けられています。
P・・・Positive Emotion
嬉しい、楽しいなどの明るくポジティブな感情を持つこと
E・・・Engagement
時間を忘れるほど集中、没頭した状態であること(フロー状態とも言います)
R・・・Relationship
周囲と良い人間関係を築くこと
M・・・Meaning
仕事の意味や意義を自覚すること
A・・・Accomplishment
達成した実感を持つこと
セリグマン博士によれば、人はPERMA状態の時に幸福を感じることができます。そして従業員の幸福度が高ければ生産性や売り上げが上がるわけですから、従業員のPERMA状態を創ろうというウェルビーイング経営は、経営戦略に他なりません。事業を成長させたければ、まずは従業員のPERMAに注目せよ、というエド・ディーナー博士の言葉には、なかなかの説得力があります。
人間関係と従業員のウェルビーイングには相関性がある
PERMA理論の中でも、特に注目すべきは、社内の人間関係向上という観点です。多くの経営者の皆さまも、従業員のウェルビーイングと社内の人間関係との間には相関性があるという実感があるのではないでしょうか。
つまり、社内の人間関係が悪ければ、意思疎通がうまくいかずに仕事の進みが悪くなります。部下からすれば、気軽に相談できない上司の下で働き続けると、不安やストレスがたまり、生産性も上がりません。上司からすると、部下が何を考えているのかわからなくなり、マネジメントに自信がなくなっていくでしょう。組織運営に向き合ってきた経営者の方なら、社内の人間関係に関する相談を、少なくとも一度は受けたことがあるはずです。
新型コロナウイルスによるリモートワークの影響
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大後、リモートワークが一気に進み、社内での何気ない雑談や、懇親会などでのリアルなコミュニケーションが激減しました。これにより社内の雰囲気が変わったと訴える経営者の方は少なくありません。また、心身の不調を訴える社員も増え生産性の低下に悩む声も上がっています。新型コロナウイルスの流行は、多くの企業にとって、新しい社内コミュニケーションの構築を迫られるきっかけになっています。そして、このような変化は、ウェルビーイング経営を本格的に導入する後押しにもなっているのです。
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