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人間学・古典

第3回 酒で身を滅ぼす 李克用の失敗

経営に活かす“十八史略”

「私欲」のひとつで、ビジネスマンにとって身近なものに「酒」があります。

正直に申しますと、私も酒での失敗は1度や2度ではありません。具体的に書くとコラムを読んでもらえなくなりそうなのでやめますが、「今日はほどほどにしておこう」と自分を戒めながら酒の席に臨んでも失敗してしまいます。対処法が難しい…

酒は、夏(か)王朝を起こした禹(う)の時代に儀狄(ぎてき)という者が初めて作ったそうです。これを飲んでみてうまさに驚いた禹は、

  「後世、必ずこの酒で国を滅ぼす者があろう」

と言い、儀狄を遠ざけたとのこと。

 禹は自分が酒におぼれることを自ら避けましたが、禹の予言どおり、多くの者が酒の魅力にはまって失敗しました。それは現代にまで続いています。

唐の時代、懿宗(いそう)皇帝(西暦859873年)の頃のこと。

政治の腐敗がひどくなり、朝廷では奢侈(しゃし)が日に日に甚だしく、巷では戦乱がひっきりなしに起こって、租税の取り立てもいよいよ厳しくなっていきました。

次の僖宗(きそう)皇帝(873888年)の御世、塩の密売をやっていた黄巣(こうそう)という者が立ち上がり、私兵を組織して近隣城市を襲撃したのを手始めに進撃を続け、ついに東都洛陽(らくよう)に入城し、続いて西都長安(ちょうあん)をも陥れて、自らを大斉(だいせい)皇帝と称したのです。

このとき、辺境警備隊隊長であった李国昌(りこくしょう)に所属していた将校たちが、李国昌の子、李克用(りこくよう)をかつぎ出しました。

「天下は乱れ、朝廷の号令も行われない今こそ、新しい英雄が現れて功名を立て、富貴を求めるべきときである。李(り)(国昌のこと)の名はすでに天下に鳴り響いているが、その子の克用の武勇も諸軍中で最も秀でている。われわれが彼に協力して事を挙げたならば、北方の地は簡単に手に入るだろう」

そう言って彼らは克用を説得。克用は決意して行動を起こし、勝ったり負けたりしながらもついに長安を回復し、官軍として黄巣の軍を追撃して散々に打ち破ったのです。

李克用が黄巣軍を追いかけてある城にやってきたとき、かつて黄巣軍の武将で、すでに官軍に下っていた朱全忠(しゅぜんちゅう)は、入城した克用を城内の旅館に泊めて丁寧にもてなしました。

ところが、その席上で大酒を飲んでしまった克用は、酔いに任せて全忠をさんざんにバカにしたのです。

おそらく、官軍に寝返ったことや黄巣軍を滅ぼせないことなどを批判したのでしょう。

朱全忠は冷静さを保つことができませんでした。兵を率いて旅館を包囲し、襲い掛かったのです。

克用は酔いつぶれていました。側に仕える者がその顔に水をぶっかけて緊急事態であると告げたことで、克用はようやく驚いて目を見張り、弓を手にとり、よろめき立って逃げ出したのです。

外は激しい雷雨であたりは真っ暗。左右の者は酔った克用を助けながら、稲光をたよりに城壁に縄をかけ、これにすがって脱出しました。

敵兵が橋のたもとを固めていましたが、お供の者たちが死力を尽くして戦ったので、やっと渡り切り、難を免れたのでした。

李克用は、黄巣の軍を破った後で、完全に油断していたのでしょう。すでに同じ官軍になっているとはいえ、かつての敵の前で酒を飲みすぎ、相手をバカにするというミスを犯して、自らを死の危険にさらしてしまったのです。

ちなみに朱全忠はこの後、唐を亡ぼして梁(りょう)を建国した人物であり、その梁を破って唐(後唐)(こうとう)を建国したのが李克用の息子、李存勗(りそんきょく)というのですから、どうやら酒の場の恨みが子孫の代まで続いたようです。

 酒好きの私としては、酒を否定する気にはなれません。

 上手に活用すれば、人と人をつなぐ潤滑油としてすばらしい働きをする酒。結局は「ほどほどに」という戒めを実践するしかないのでしょう。

できれば、その具体例を身近に見て手本としたいものです。

ビジネスマンからすると、上司の酒の飲み方は大きな影響を与えます。品のあるきれいな飲み方をするか、周囲を不快にさせるような飲み方をするか? 

 社長のあなたの飲み方は、社員の人生まで左右する

かもしれません。せめて社員の前では「酒はこう飲め」と言わんばかりのステキな飲み方を心がけてください。

 
 
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