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人間学・古典

第2回 「酒池肉林」欲望の果て

経営に活かす“十八史略”

企業を滅ぼすモノとは何か?

「競合他社にやられた」

「よい商品が開発できなかった」

「突然、得意先から取引を切られた」

など、いろいろと理由は挙げられますが、大本の原因は、


 ・(倒産企業は)自らの「私欲」に負けた


と言えるのではないでしょうか。

欲に負けて本来のやるべきことを怠った結果、企業内に不具合が生じた…そう考えると、社長の正しい仕事や姿勢が見えてきます。

環境に大きく左右される生き物、人間。

大昔、自然の前にひれ伏すだけだった人間に、「私欲」を抱く余裕はほとんど無かったでしょう。人類は力を合わせて生きていかねばならず、自分を抑え、和を大切にせざるをえなかったのです。

ところが、時代が下って少しずつ知恵を身につけ、自然に対抗する手段をもつようになると、さまざまな欲望が湧いてきたのです。

「十八史略」には、大昔の優れた人々が農業、医薬品、市場などを開発し、舟や車を製造し、天文の書や暦、計算法、音楽のもとを作るなどしていった様子が描かれています。それらによって貧富の差が生まれ、同時に持てる者の欲望も巨大化していきました。

欲望を放っておくと、果たしてどのような事態に陥るのでしょうか。

「十八史略」にこんな話があります。

夏后氏(かこうし)禹(う)が開いた夏(か)王朝の17代目の王である履癸(りき)(後に桀(けつ)と呼ばれる)は、欲張りで人をいたぶることを好み、鉄のくさりも軽々と引き伸ばせるという怪力をもった人物でした。

この桀(けつ)が諸侯のひとりを伐(う)った際、その諸侯は娘の末喜(ばっき)を側室として献上。

桀(けつ)は末喜(ばっき)を寵愛し、言うことを何でも聞き入れ、従ったそうです。宝玉をちりばめた宮殿や楼台(ろうだい)を造り、人民の財産を取り尽くしたため、人民は窮乏に陥りました。

また、肉を山のように積み上げ、乾し肉を林のようにかけて、酒をたたえた池には船を浮かべ、酒糟(かす)で作った堤は10里先まで望めるほどのもので、一たび太鼓を鳴らせば、まるで牛が水を飲むように3千人もの人間が池に顔をつけて酒を飲みました。

末喜(ばっき)はこのような光景を見て楽しむ女だったのです。

そういうわけで、民の心は王室からすっかり離れてしまいました。そうしてついに、殷(いん)の湯(とう)王に征伐されたのです。桀(けつ)は鳴条(めいじょう)という地に逃げ、そこで死んだとあります。

これと極めて似た失敗の経路をたどったのが、殷王朝の29代目、紂(ちゅう)王です。

紂(ちゅう)は生まれつき弁舌巧みで動作はすばしこく、猛獣を手打ちにするほどの腕力がありました。その悪がしこさは諫める者を逆にやり込めてしまうし、自分の非をとりつくろうのもお手の物でした。

紂(ちゅう)がある諸侯を攻めた際、その諸侯は妲己(だっき)という美女を側室にと献上します。紂(ちゅう)は妲己(だっき)を寵愛し、彼女の言うことなら何でも聞きました。

租税を重くし、財宝や米穀で倉をいっぱいにするのみならず、沙丘(さきゅう)の庭園を広げて、酒の池、肉の林を作り、夜通し酒宴に耽ったと言います。人民はみな紂をうらんで、諸侯の中にもそむく者が現れました。

そうしてついに、支配地である周(しゅう)で善政を施していた昌(しょう)(のちの文王)の子、発(のちの武王)が立ち、諸侯を率いて紂(ちゅう)を征伐したのです。牧野(ぼくや)の地で大敗した紂(ちゅう)は、宝玉を身にまとって火中に飛び込み、死にました。

夏の桀(けつ)王も殷の紂(ちゅう)王も、実際にここまでひどかったのか、本当のところは分かりません。

しかし、この2人が共通して、美女、酒、財宝などに目がくらみ、人を思い通りに動かすことを面白がり、結果として人民を苦しめ、人心離反の結果を招いたという顛末からは、

 

 いかに人間が同じような欲をもち、同じように失敗する存在であるか

 

を学ぶことが出来ます。きっと古代中国人は、わざと似通った話を作り上げて、欲をもつことの怖さを啓蒙しようとしたのでしょう。

 この例は極端ではありますが、私たちの心にも「楽をしたい」「取引では儲けを多くしたい」「現状維持でいきたい」など、小さな「私欲」があります。

 問い詰めて罰せられるほどではないかもしれませんが、これらが積もり積もった時、危機が訪れるのです。

 普段から、この小さな「私欲」に打ち勝つように心がけねばなりません。

 欲に負けない企業文化を作るべく、自ら手本を示すのが社長の重要な仕事です。

 
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