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人間学・古典

第14回 賢人を集める 唐の太宗の政治

経営に活かす“十八史略”

「十八史略」にあるように、優秀な人材を集めることの大切さは大昔から理解されていました。しかし、それを形だけ真似する君主もいたようです。

例えば、魏(ぎ)の恵王は、衰えた国勢を挽回すべく、天下の賢者を招きましたが、そのときやってきた孟子(もうし)を実際には用いませんでした。口先だけの君主だったのです。

企業経営においても、こうした口先だけの経営者は少なくありません。

例えば、「優秀な人間をどんどん雇用したい」と、たびたび周囲に話している社長がいましたが、具体的な採用活動は行なっていませんでした。

気持ちだけあっても、具体行動を起こさなければ何もしていないのと同じです。

「十八史略」に登場する人物の中で、唐(とう)の太宗(たいそう)は賢人をもっとも集めた人物といってよいでしょう。

唐の太宗、文武(ぶんぶ)皇帝は、名を世民(せいみん)といいます。幼い頃、たまたま一人の書生が帝を見て、

 「この子の姿は竜や鳳凰のようだ。また、太陽のような人相をしている。元服する20歳くらいになれば、きっと世を救い、民を安んずるであろう」

 と言って、立ち去りました。この話を聞いた父の高祖は書生が言った「済世安民」の語から2字をとって「世民」と名づけたのです。

 この名のとおり、世民は18歳のとき父に勧めて義兵を挙げ、天下を平定しました。

 父の高祖は世民の功績に報いるため、特に天策上将(てんさくじょうしょう)という官を設け、位を王公の上に置き、世民をその官に任じます。そして、彼のために天策館という専門の役所を開きました。

 世民は役所のなかに学問所を開いて学問の士を招いたのです。杜如晦(とじょかい)、房玄齢(ぼうげんれい)など18名を文学館学士に任命し、3つの組に分け、交代で館内に宿直させました。

 世民は、暇さえあれば天策館に赴いて、書籍について討論し、時には夜中すぎになることもあったとのこと。また、ある絵の名手に学士たちの肖像を描かせ、それぞれ誉める文をつけ、十八学士と称号しました。

 士大夫(したいふ)でこの十八学士の仲間入りができた者を、当時の人々は登瀛洲(とうえいしゅう)と呼んで名誉なことと称えたのです。

 このように自分の周囲に賢人を集めて意見を聞き、よいと思ったものを採用するという過程を踏むのは、名君と呼ばれる人物に共通する特徴です。

 即位後、太宗(世民)に対して、ある者が、

 「君にこびへつらう臣を退けていただきたい」

 と願い出ました。そして、

 「どうか陛下には怒ったふりをしてお試しください。あくまでも道理を言い張って屈しない者が正直な臣、威光を畏れて仰せにしたがう者が佞臣(ねいしん)でございます」

 と言います。太宗はこう答えました。

 「君たる私が臣下にいつわりをなしておいて、どうして臣下に正直にせよなどと責めることができようか。私はあくまでも真心をもって天下を治めていきたい」

 ある者が刑法を重くして盗賊を禁じるようにしていただきたいと申し出ました。太宗は、

 「豪奢な暮らしをやめ、むだな費用を減らし、人民の夫役(ぶやく)を軽くし、租税を減らすべきである。そして潔白な役人を選んで用いる。こうして人民が衣食について余裕をもてるようにしたならば、自然に誰も盗みなどしなくなるであろう。どうして刑法を重くする必要などあろうか」

 と答えました。はたして数年の後には、落し物があっても拾って自分の物にする者はいなくなり、盗賊が後を絶ったので、行商人も旅人も安心して野宿できるようになったのです。

 太宗は、あるときこう言いました。

 「君主は国があるから成り立つのであり、国は人民が存在するから成り立つのである。にもかかわらず、人民から残酷に取り立てて君主が贅沢を楽しむのは、自分の肉を割いて自分の腹を満たすようなものだ。腹はふくれるだろうが肝心の身体は死んでしまう。君主が富んでも国は亡びるだろう」

 このような考え方をしていた唐の太宗の時代は天下太平で、後の多くの君主の模範となりました。

 天才将軍といってよいほどの輝かしい武功を背景に、父の後をついで天子となった太宗は、多くの賢人たちを活用し、人民が喜ぶ国家を作り上げたのです。民心を一つにした太宗。何よりも民を大切に考える人でした。


   ・さまざまな意見が飛び交う環境を作る

   ・その中でベストと思う策を自分で判断し、実行する


 このようにする者は、おのずと優れたリーダーになっていくのではないでしょうか。

 
 
 
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