■利他(りた)の精神
職業柄、多くの会社の経営方針発表会に招かれます。
昨今はリアルでの開催が復活し、同じ場所、同じ時間に一堂に会し、同じ空気を共有することの価値を改めて感じます。
そこで、必ずと言っていいほど経営理念が唱和されます。
どの会社も文言は異なれども、言っていることは同じです。
「利他(りた)の精神で社会に貢献する」です。
利他の精神とは、「自分のことよりも他人のため、世の中のために」という意味の仏教用語です。
それを聴いた30代半ばの二世経営者から次のような質問をいただきました。
「私はいつも自分のことばかり考えてしまいます。どうしたら利他になれるのでしょうか?」
これに対し私は次のように応えました。
「大丈夫。50歳を過ぎれば自ずと利他になれるから」
実際若くても利他の生き方を徹底できている人もいますから私の回答は絶対的な正解ではありません。
が、自分自身や同世代の友人たちを見る限り50歳を超えてからごく自然に「利他」の生き方ができる人が増えているように思います。
先日、ベストセラー『京都祇園もも吉庵のあまから帖』の著者である志賀内泰弘先生を囲む会があり参加してきました。
そこには、50歳越えの経営者や教育者の方が多数いました。
彼らは自己紹介タイムでは、次のような挨拶しました。
100年続く老舗旅館の女将は
「外国人のお客様に、接客ひとつでこの国のイメージが悪くなったら申し訳ない。『また来てみたい』と言われることを目指しています」
特別支援学級の先生は…
「もっともっと勉強しないと子供たちに申し訳ない」
運送会社の経営者は…
「自分の周囲には旅立たれる人がいる。自分が生かされている意味は何か?を考え行動したい」
これらを聴きながら、皆さん、
「自分は社会を少しだけ暮らしやすくするための『道具』だ。この道具を活かしたい」
と言っているのだと感じました。
しかし、そのように当たり前に考えられるようになるのは簡単ではありません。
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