「わが社は機械製造の会社なのですが、短納期の注文も多く、お客様の希望を叶えるためには残業が避けられません。加えて個々の社員の残業時間管理も繁雑なため、平均的な残業時間を根拠に、みなし残業分として業務付加手当を支払っています。この業務付加手当は、定額支給で済むと理解していたのですが、それでは不十分だと聞きました。もし実残業時間を計算しで残業手当を支給するとなれば、金額的にも少なくなく、手間がかかりすぎます」。お客様第一の理念で業績を伸ばしてきた企業の総務担当長がこられたときの話です。
労基法には、就業時間を1日8時間、週40時間以内と定められており、その法定労働時間を超える勤務が避けられない時には、36協定が必要であり、時間外労働に対しては25%の割増賃金が定められています(労基法37条1項)。 同時に、定められた手順で算出された手当金額が実残業時間の計算額を下回らなければ、このような支給方法でも問題はありません。
ただし、実残業時間がこの業務付加手当で考慮された時間を超えていれば、定額に加えて差額分を残業手当として支払うことが必要です。
そこで「御社では従業員の判断で残業させ、仕事の終了時ではなく、退社時にタイムカードを押させていませんか」。とお尋ねしました。「本来、残業には直属上司(管理監督者)からの残業指示が必要であり、部下から上司への残業申請と終了報告が必要です。みなし残業を設定している場合であっても、その考慮された時間を越えて残業をさせる場合には上司からの残業指示は必要であり、部署として必要以上に残業時間を増やさないためにもワンマンワンボス、部下から直属上司(管理監督者)への残業の終了報告はその都度必要です」。
ところで、管理監督者の重要仕事のひとつとは何でしょうか。それは部下から預かる労働時間の管理責任者、つまりタイムキーパーだと常々申し上げています。直属上司がタイムキーパーとして役割を自覚し、責務を果たした時、初めて無駄な残業は減らせるのです。
極論ですが、企業として慣習的に残業が多く、長時間勤務が美徳とされてきたとすれば、それは会社にとって何よりも大切な利益が組織ぐるみで横領されてきたのだと経営者は見方を変えるべきです。非能率で高コストな長時間残業をよしとしてきた現状を打破するためには、必要以上の残業は悪(罪)であり、個人のレベルでも、最低限度の残業で能率よく仕事品質を高めてきた事実を評価しあえる組織に変えていくべきです。そしてそれは時間管理の責任者たる直属上司による時間管理の徹底と部下一人ひとりの仕事品質の確認(年2回の成績評価制度)によってのみ実現できるものなのです。