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マネジメント

第118回 『部下との心理的ベースの構築術』

社長の右腕をつくる 人と組織を動かす

 

伊藤忠商事会長の小林栄三氏は、
「一人でも部下をもつようになったら、その部下を育てることが一番の仕事だ考えた」
という。

小林氏の部下育成法で広く知られているのは、新入社員に課した「週一レポート」だ。

新入社員に、一年間、週に一度のレポート提出を求める。テーマは自由だ。
仕事に関することに限らず、スポーツでも、社会時評でも何でもよし。
A4の用紙にパソコンの標準的な文字組で1~2枚程度。文章の上手いまずいは問わない。

求めるだけでは部下はついてこない。
小林氏は、出勤の車中はもちろん、出張中もレポートを持ち歩き、一人一人に、
感想やアドバイスを添えて返すようにした。

「毎週、レポートを一年間も続けて書いていると、
 次第に気負いやポーズがなくなり、
 本音や地が顔を出してくるものです。
 それを知ることが目的だったし、
 一番のメリットでした」 と、小林氏は言う。

この週一レポートで、自信をもって人材配置を行えるようになった。

小林氏の新人育成は、二年目に「本番」に突入する。
一年目はほとんど叱らない。ミスに気付いても軽く注意し、丁寧に教える程度に止める。
だが、二年目からは、時には怒鳴る。
レポートで性格がわかっているので、怒られたらどういう行動をするのかも予想できる。
へこたれないタイプを選んで、あえて叱られ役もつくった。

そのかわり、叱ったあとはフォローする。ほとぼりがさめた頃、飲みに誘い、
「あの時は、こういうことで怒ったのだよ」と、きちんと説明するのだ。

こうすれば、感情的なしこりは残らない。
マイナス感情が積もっていくのを避けるやり方だ。


「八ほめ二直言」というルールがあるが、それは、部下に対しても通じる。

再生ダイエーのCEOなどを歴任された横浜市長の林文子さんは、
ホンダ、フォルクスワーゲン、BMWと自動車会社を渡り歩き、
どこでもトップセールスレディとなった人だ。
彼女は、ダメ部下をしかるときはこんなふうだったという。

「あなたを見ていると、本当にくやしいわ。
 こんないいところがあるのに、こんな成績だなんて。
 本当にくやしいね」

「あなたは素晴らしい。こんな魅力の持ち主だったのね。
 ・・・でも、なんでこんなルール違反をするのかなぁ」
といった具合だ。

林さんは、こう言っている。

「部下を育てるには、すぐに結果を求めるのではなく、
 子供を育てるように、まず、心のベースをつくる。
 それから、仕事のスキルアップにとりかかる。
 そうでなければ、
 本当のスキルアップははかれないものです」と。

まことに同感だ。

 

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