「自分も資格を取りたいと思うけど、忙しくて時間が取れない」
と言いきってしまう人がいる。
「意志はあるのだが、時間がないのだからどうしようもない」
という、自分にとって実に居心地のよい言い訳になる。
だが、人は、弁明を始めたとき、すでに敗者の領域に入ってしまっているのだ。
ある企業に勤務しながら、男手ひとつで子育てをしているAさんの例を紹介しよう。
Aさんは最近、シングルファザーになった。
離婚することになり、二人の小学生の子の親権を持ち、手元で育てることにしたのだ。
時間のやりくりが難しいことは目に見えていた。だが、自分で自分に誓ったことがある。
「時間がないのでできない」というセリフを、絶対に口にしないということだ。
そして、まず自宅を職場近くに引っ越した。通勤時間を圧縮したのだ。
それから、生活をそれまでの夜型から朝型に切り換えた。
子供の暮らしに合わせるためだったが、結果的には、仕事も一層はかどるようになったという。
アフターファイブのつき合いは、ビジネスマンにとって欠かせないと考え、
週五日のうち三日は人と飲むことにした。
ただし、「毎日、違う人と」。
同じ人と飲む機会はできるだけ減らすことにした。
少なくとも、親しい人とも月に二回は飲まない。
「違う人と、違う店で」。
そうすれば、それだけ受け取る情報も刺激も多様になり、幅も広がる。
そして、二次会はいっさい参加しない。遅くとも九時前には帰宅する。
それから子供と食事をし、風呂に入ってスキンシップ。
そのあとは、なんと子供と一緒に寝てしまう。
たまった仕事やどうしても急ぎの仕事は、翌日、早朝に起きて、
出勤前にはある程度まで片づけることにしたのだ。
二次会に行かなくなったため、深酒もなくなり、朝の目覚めはスッキリしている。
夜、十時少し過ぎにはベッドに入るから、五時に起きても、七時間近く寝ていることになる。
睡眠不足を感じたこともないという。
子供は月に一回、母親(Aさんの元妻)のもとへ泊りがけで出掛けていく。
その日は、以前のモーレツビジネスマンに戻って、ときには深夜までの残業も厭わない。
反対に、三か月に一度は、Aさんの母親を交えて家族旅行をする。その予定は、断固死守する。
このように、メリハリのある時間の使いこなしを覚えたせいか、
Aさんは、子育てとビジネスライフを両立させることに成功している。
「時間がないからできない」を禁句にして以来、
Aさんは、自分の発想や行動まで変わってしまったことに気が付いた。
Aさんの返事は、「いついつならできるよ」と、すべて肯定形になったのだ。
そのことが、考え方、ものごとに対する取り組み方を大きく変える力になり、
驚くぐらい明るいシングルファーザーライフを送れる自分になっていったのである。