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採用・法律

第49回 『70歳まで働きたいといわれたら?』

中小企業の新たな法律リスク

工作機械メーカーの石川社長は、60歳を超えている従業員らから今後もできる限り長く働きたいという要望を受けて、今後の高年齢者の雇用をどうしたらよいか賛多弁護士に相談に来られました。
 
* * *
 
石川社長:当社では熟練技術者の優れた技術力をいかに若手従業員に承継させるかが課題でしたが、若手の育成に力を注いだ結果ようやく若手も育ってきました。そこで高齢であるベテラン従業員にはあまり無理をさせられないのでそろそろリタイヤしてもらおうと考えていましたが、ベテラン従業員からできる限り長く働き続けたいという要望がありました。そこで、高年齢者の雇用をどうすればよいのか悩んでいます。
 
賛多弁護士:ちょうど改正高年齢者雇用安定法が2021年4月から施行されますので、このタイミングで貴社の高年齢者雇用について検討しておくことは素晴らしいと思います。現在の法律では、65歳までの雇用確保が義務づけられています。具体的には事業主は①定年を65歳まで引き上げる、②定年制を廃止する、③65歳までの継続雇用を導入する、のいずれかを採る必要がありますね。
 
石川社長:はい。当社も65歳までの継続雇用制度を導入しています。改正後はどうなるのでしょうか。
 
賛多弁護士:改正後の高年齢者雇用安定法では、65歳から70歳までの就業機会を確保するために、65歳までの雇用確保義務に加えて、①70歳までの定年引き上げ、②定年制の廃止、③70歳までの継続雇用制度の導入、④創業支援等措置のいずれかの措置を採るよう努力する義務が課されることになります。
 
石川社長:ええ、70歳まで就業を確保させなければならないのですか!?
 
賛多弁護士:いいえ、今回の改正はあくまで努力義務であり、実際にこれらの措置を採ることを義務付けられるものではありません。
 
石川社長:それは安心しました。創業支援等措置とはどのようなものですか。
 
賛多弁護士:簡単にいえば、雇用ではなく、いわゆる独立のフリーランスとして会社と業務委託契約を締結したり、会社が行う社会貢献事業に就くなどして仕事を続けてもらう制度です。
 
石川社長:わかりました。従業員らには長年当社の発展に貢献してもらったので従業員らが希望するのであれば、70歳までの継続雇用制度の導入を検討したいという思いはあります。
 
賛多弁護士:それがよいでしょう。65歳以上の雇用確保措置を検討するこの機会に、併せて高年齢者の業務内容、勤務時間、施設設備について高年齢者が働きやすい雇用環境を整えておくことも大切です。
 
石川社長:たしかにそうですね。私も従来の業務内容や勤務時間のままだと高年齢の従業員には体力的にも厳しいので悩んでいます。どうすればよいでしょうか。
 
賛多弁護士:高年齢者の知識、能力、経験が活かせるように業務内容を見直したり、勤務形態も短時間勤務制や隔日勤務制度など高年齢者に負担のないように配慮することが望ましいですね。いずれにせよ従業員とよく話しあって決めるのが望ましいでしょう。
 
石川社長:わかりました。それからベテラン従業員は賃金が高く、現状の賃金を維持したまま継続雇用するのはなかなか難しいのですが、この点はどうしたらよいのでしょうか。
 
賛多弁護士:賃金を下げることは可能ですが、業務の内容、就業の実態を考慮して適切な金額になるよう配慮する必要がありますし、賃金を下げる場合も生活の安定にも配慮して減額を計画的かつ段階的なものとなるよう努める必要があります。
 
石川社長:わかりました。賃金についてもできる限り配慮するつもりです。
 
賛多弁護士:それから、高年齢者雇用に関して助成金も受けられる場合がありますので、こちらの活用もご検討ください。
 
石川社長:ありがとうございます。早速検討したいと思います。
 
* * *
 
 令和3年4月1日から改正高年齢者雇用安定法が施行され、全ての企業に対して、現在65歳までの雇用確保措置(法9条)に加えて、①70歳までの定年引き上げ、②定年制の廃止、③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入、④創業支援等措置のいずれかの措置を講ずる努力義務が課されることになります。今回の改正ではあくまで努力義務ですが、将来的には70歳定年が義務付けられることになることが想定されるため、今のうちから検討しておくことが望ましいでしょう。
 
 65歳までの継続雇用制度は特殊関係事業主(子会社などのグループ会社を指します。)に限り認められてきましたが、改正後に導入される65歳以降の継続雇用制度では特殊関係事業主以外の他社でも継続雇用制度の導入が可能となりました。
 創業支援等措置とは、(ア)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度、または(イ)70歳まで継続的に、(a)事業者が自ら実施する社会貢献事業もしくは(b)事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度です。ここにいう「社会貢献事業」とは不特定多数の者の利益に資することを目的とした事業をいいます。
 
 そして、高年齢者就業確保措置を講ずる際には、高年齢者が勤務しやすい職場環境を整えることも大切です(「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」参照)。例えば、高年齢者の能力・知識・経験が活用できる職務内容の設定、就業時間の弾力化(短時間や隔日勤務、フレックスタイムの導入)、作業設備の改善などが挙げられます。賃金に関しても、業務の内容、就業の実態を考慮して適切な金額になるよう配慮し、賃金を下げる場合には生活の安定にも配慮して計画的かつ段階的なものとなるよう努める必要があります。
 
なお、裁判例によれば、高年齢者の意思に反して定年時に全く異なる業務内容や著しく低い賃金で就労させた場合には、高年齢者雇用安定法が予定する再雇用制度の趣旨に反するとして不法行為(慰謝料)請求が認められる恐れがありますのでご留意ください。
 また、65歳等の雇用確保措置の導入や高年齢者の雇用管理制度の整備に関しては「65歳超雇用推進助成金」が受けられますのでご利用もご検討ください。
 
 今後更なる人口減少および長寿化が進む日本において、高年齢者にとって働きやすい雇用環境を整えることは重要な経営課題になって参りますので、この機会に従業員とともに高年齢者の雇用方針について検討しておくことが望ましいでしょう。
 
以上
<ご参考>
・高年齢者雇用安定法の概要(詳細版パンフレット)(厚生労働省HP)
 
 
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 北口 建
 

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