経営者やビジネスマンの方たちと、読書について語り合う時、
よく感じることがあります。
それは、「文学を読む方が非常に少ない」ということです。
大半の方が、ビジネス書や経営書、実用書を中心に読んでいて、
あとは、歴史や政治、哲学関係ですね。
小説の場合は、司馬遼太郎や吉川英治らの歴史小説は人気があるものの、
文学、特に世界文学を好んで読まれる、という話は、めったに耳にしません。
おそらく、あまり読むメリットや魅力を感じないのだと思いますが、
ぼくは、世界文学こそ、何にも勝る教養書、と思っていますので
本当に残念でなりません。
そして、世界文学の中には、「ビジネスに役立つ」と自信を持って言える本が
多数あります。
その代表的な一冊が、今回紹介する、
『ゴリオ爺さん』(著:オノレ・ド・バルザック)光文社古典新訳文庫
です。
19世紀を代表するフランスの文豪バルザック、最大の傑作。
パリという光と影のある大都会を舞台に、一癖も二癖もある老若男女の人間模様が、
実に生き生きと描かれる中で、人生や家族、人間心理についてはもちろん、
社会学、歴史、経済などの学びも豊富に得られる、実に魅力な一冊となっています。
本書に魅了された人は古今東西で数え切れないほどいますが、
たとえば、”ピケティ現象”と呼ばれるほどブームを巻き起こした、
フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏も、そんな一人。
全世界で250万部を超える大ベストセラーとなった異例の経済書、
『21世紀の資本』(著:トマ・ピケティ)
において、たびたび本書について言及、引用されています。
特に、第三部「格差の構造」の第七章「格差と集中」において、
取り上げている『ゴリオ爺さん』の内容は、
ピケティ氏が主張する、有名な
「r(資本収益率)>g(経済成長率)」
を語るのに、この上なく、わかりやすい事例となっています。
それが単なる理論ではなく、『ゴリオ爺さん』という文学作品を楽しむ中で、
身に染みて実感できるのが、素晴らしいところ。
また、『ゴリオ爺さん』は、シェイクスピアの『リア王』を踏まえて書かれている部分もあり、
数え切れないほどの伏線が仕込まれています。
本書を読みこみ、理解すればするほど、いつの間にか、歴史や社会学、経済学などの力も
高まっていく、と言っても過言ではありません。
正直、冒頭部分が冗長に感じられて、挫折する人も多いのも有名なのですが、
光文社古典新訳文庫版では、読みやすく工夫されていると思います。
経営者、リーダーにとって、大きな学びにも楽しみにもなり、
教養面の充実も期待できる、極めて有益な一冊です。
ぜひとも読んでみてください。
尚、本書を読む際に、おすすめの音楽は、
『ベルリオーズ:幻想交響曲』
(指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン、演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
です。
『幻想交響曲』は、フランスの作曲家ベルリオーズの代表曲。
ベルリオーズは、『ゴリオ爺さん』の著者バルザックとは同世代で交流があり、
影響を受けたと言います。
この曲は1830年にパリで初演され、『ゴリオ爺さん』は1835年の発表で、
まさに同時代のパリから生まれた作品です。
“楽壇の帝王”カラヤン指揮、名門ベルリンフィルの演奏による名盤、
本書と合せてお楽しみいただければ幸いです。