世の中、話し上手と称される人は多いが、
聞き上手というのはあまり聞いたことがない。
アメリカのビジネス・エグゼクティブは、
一日の総労働時間の約60%を「聞くこと」に使っている。
しかし、それほどの時間を費やしているわりには、内容の理解は薄く、
記憶となると、もっと心もとないという調査結果がある。
たとえば、4時間ばかり誰かの話を聞いていたとしよう。
そのうち聞き手がちゃんと聞いているのは、せいぜい1時間、
それが、どの程度覚えているかとなると、たったの8分ぶんという調査もある。
人はいかに聞くことが苦手であるか、わかろうというものだ。
といって、苦手なままにしておいて良いわけではない。
少しでも聞き上手になるような姿勢を、示すべきである。
私の友人に、国際関係の法律を専門にしている弁護士がいる。
いつ行っても、相談者が絶えないほど繁盛しており、
私が待たされることもしばしばだ。
そうした折、彼が実によくメモを取っていることに気がついた。
そこで、「ずいぶんメモを取るんだね」と何気なく聞いたところ、
彼はこう答えるではないか・・・
「実は、ポイントさえメモすれば、それで済んでしまうんだ。
でも、相談者にしてみれば、いろんなことを訊きたいんだろうね。
同じようなことを繰返し質問してくることが多いよ。
はっきりいって時間のムダなんだろうけど、一応、お客様だからね。
それで、熱心に聞いているように振る舞うために、
メモを取っているように見せているんだよ。なに、イタズラ書きさ・・・。」
たしかに、イタズラ書きといえども、そこに法文のひとつでも書かれてあれば、
法律のシロウトなら、熱心に聞いてもらえていると錯覚するものだ。
このメモ作戦、ある場面では参考にすることもできるだろう。
ただし、本質論ではありえない。
やはり、聞き上手になるためには、それなりの努力が要るものだ。
たとえば、部下の声にいかに耳を傾けるか。
気のない返事や、無視したような返事ばかりでは、
部下はそっぽを向いてしまうのはもちろんだが、一番良くないのは、
部下の意見に対して「ノー!」と言っておいて、
そのまま放っておくことだ。
「君、私はあの時、ダメだという判断をしたが、
いろいろ調べてからもう一度結論を出すよ。
ほかの人間にも意見を聞いてみよう。」
といったフォローがポイントとなる。そのうえで、
「やっぱり君の意見にはムリがある。
違った角度から、もう一度考えてみなさい。」
とすればどうだろうか。
それをしないと、コミュニケーションが取れないばかりか、
その部下は二度と意見を具申してこなくなるだろう。 その方が、怖い。