はたしてビジネスマンに“人間的能力”、つまり人間的な魅力は本当に必要なのか?
それについて、私の経験をもとに考えてみたい。
私は永いビジネスマン生活の中で、一度だけふて寝をして会社をズル休みした経験がある。
たしか、仕事を始めて7、8年過ぎたころだったと記憶している。
そもそも当時の私は、“仕事ができる男”に魅かれていた。
そのため、専門的能力やマネジメント能力を高めることを自分に追い求めた。
それこそ、スキルの熟練に全力を傾注し、極端にいえば、「自分の仕事さえうまくいけば」と
他人のことには無関心で、ゴーイング・マイウェイを決め込んだ。
それが、仕事ができる男である・・・と思っていた。
仕事に興味が尽きず、さらなる意欲を燃やしていた時期でもあり、
病気でも出社こそすれ、ズル休みをするなど、考えたことすらなかった。
それが出社拒否をしたのには、訳があった。
会社の中で大きなプロジェクトが進行していて、
それまでのいきさつから、当然に私もメンバーに入るものとばかり思っていたところ、
選にもれたばかりか、後輩が選ばれたからだ。
それで面白くなく、布団をかぶって家で悶々としながら寝ていた次第なのである。
おそらく、そのまま一日が過ぎていれば、その後の私は無かったのかもしれない。
夜、わざわざ部屋を訪問してくれた課長のひと言に、
私は自分に欠落していたものがあることに気がついたのだ。
「どうだ調子は?
ところでプロジェクトの件、メンバー選定に講義もせず、黙認してくれてありがとうな。
実はあのプロジェクトは、ある事業から撤退するためのものなんだ。
そこに、お前みたいに積極的で攻撃的なタイプは向かないと思ったから選ばなかったんだ。
そもそも、退くからには犠牲が伴うし、おまえをその渦中に巻き込みたくなかったんだ。
とにかく、後輩が選ばれたことに文句を言わずにくれてありがとう…。」
課長が帰ったあと、私は何度自分の頭をゲンコツで殴ったことか。
心の中で、何度、
「課長のために仕事がしたい」
「そうか、あの人のために仕事をしたいと思わせてこそ、ビジネスマンとして一級なのだ」
と、繰り返したことか。
このことを契機に私は、
機能的・専門的やマネジメント能力だけでは、ビジネスの世界で通用しないことに気がついた。
それらに加えて、“人間的能力”を磨いて仕事に対処しなければ、
しょせん、大きな仕事を成し遂げることはできないのだ、と強く心に刻み込むにいたった。
人間的能力(=魅力)に欠けたマネージャー・管理職・経営者は、失格である。
機能的・専門的能力+マネジメント能力+人間的能力の三位一体のバランスが取れてはじめて、
ビジネスリーダー、優れたビジネスマンになれるのだ。
「あの人のために」と思われてこそ、ビジネスマンとして本当の意味で合格点をつけられるのである。