もうひとつ、社長婦人が金庫番という会社の貸借対照表には、大きな特徴があります。借りる必要のないお金を銀行から借り、現預金を過剰に抱えているのです。
「御社特別の優遇金利でお貸しします。」
「何かあった時のために、少し多い目に現金をお持ちのほうがいいですよ。」
「口座に現金が多くても、邪魔にはなりませんから。」
などと、甘い誘いで社長よりも金庫番の奥様に近づくのです。この人に言えば借りてくれる、とわかっているのです。
「いくら現預金を持っていても、借入金は返さないといけないんですよ!金利も発生してますよ!」と、ある社長夫人金庫番にきつく言いました。
すると、
「わかっているんですよ。わかっているんですけど…、通帳にお金がたくさんあるのを見ると、なんか、安心できるんですよねぇ…。」と言うのです。
まったくわかっていないのです。女性特有の防衛本能の表れなのか、“借入金”という危険な爆弾を背負っていることに、あえて目を伏せているのです。妄想であることがわかっていても、“安心”に浸りたいのです。
そのような人物が金庫番では、いつまでたっても無借金になりません。結局その会社の場合、後継社長への世代交代とともに金庫番から外れてもらいました。銀行には当座貸越枠を作ってもらうことで、その元金庫番にも納得してもらいました。そのご婦人は、銀行優位の時代に思うように借りることができず、資金繰りでご苦労された世代の方です。その時代のことが染みついていたのです。
しかし今やカネ余りで、借り手優位の時代なのです。
家業の規模ならまだしも、企業規模ともなれば、ここで紹介したような状況は会社のためになりません。
社長夫人が会社の財布のヒモを握って取り仕切る光景は、同族企業特有のイヤな臭いを周囲に放つだけです。もし自分の会社がそのような状況なら、一刻も速く、改めてほしいのです。