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製造業

第242号 改善提案制度の弱点

柿内幸夫─社長のための現場改善

 

先回号の最後に、“工場の現場に行って作業をじっと観察してみましょう。たくさんの人が自分ではそれを改善とは思っていないかもしれませんが、実はいろいろな改善が実行されていることを確認して下さい”と申しましたが、いかがでしたか?
 
 私もこの二週間は、いつもより念入りにかなり細かい見方で作業を観察しました。その結果、それぞれの方がご自分では無意識のうちにでも、しっかりと工夫をしているものだなあと改めて思いました。
 
 そうだとすると、この力の発揮を自然に任せておくのではなく、会社の仕組みとして実行できたらすごいと思いませんか?会社のみんながその秘めたる実力、すなわち潜在能力を発揮して会社経営を支えてくれるのです。
 
 ここで一つ質問です。みなさんの会社にはどのような改善の仕組みや制度がありますか?「改善は確かにやってはいるが、仕組みとなるとどうかな、特に無いなあ」という方も多いことでしょう。
 
 一方で、もしあるとすると、最も一般的なものは「改善提案制度」なのではないかと思います。改善提案制度は日本の製造業の実力をGDP世界第二位まで引き上げた原動力の一つであり、大きな成果をあげてきた仕組みです。
 
 しかし、昨今の労働環境の変化などにより、以前と同じやり方ではうまく行かない状況も起きているようです。
 
 一口に「改善提案制度」といっても、各社でいろいろな運用のし方があると思いますが、私がよく目にする形は、「こういうことを実行すると、これだけの効果が上がると思います」という内容を、「現状の問題点」、「解決の方法」、「かかる費用」、「得られる利益」などに分けてA4サイズの用紙に記入して提出してもらい、それらを管理職の方々が審査して等級付けして評価するものです。
 
 求められる条件として「効果が出ること」「ユニークであること(人のマネでないこと)」などがあり、それらをなるべく数値化して記述することが求められます。
 
 ですから調べることも必要で、その上実際に無いものを別の人に文章で説明するので表現が難しく、けっこう書くのは大変で時間がかかります。
 
 そして、当然ですが、読む側も理解するのに苦労します。その上、公平性を考えて更に慎重に審査するので、例えばこんなことが起こります。
 
 A社で出された改善提案を審査していた時、ある審査員が「このBさんの提案は以前に出たものと一緒ではないか?」と気付き、数年前に提出された提案ファイルを審査員全員で手分けして調べました。
 
 すると、同様の提案が既にCさんから出されていたことが判明し、Bさんの改善提案は「不採用」と判断されました。
 
 しかし、なぜBさんが時間をかけてこの提案を書いたのかというと、その内容に意味があるからであり、まだ未実施だったからです。
 
 まさか数年前にCさんが同じ提案を提出していたなんて知りませんから。しかし、このような経緯で、Bさんの提案は却下ですから、Bさんはがっかりしてもちろんこの内容は実行されません。この提案を書いたり読んだりにかかった膨大な時間はすべてムダになったという結果です。
 
 もちろんこれは極端な例をあげたのであって、「改善提案制度」を否定するつもりはまったくありません。しかし現在のモノ作りの職場で起きている国際化(言語)・流動化(経験)などの環境の変化を考慮に入れると、この制度だけでは少々重いかな...と感じるときがあります。
 
 そこで、これらの点を補う方法として、私はマネあり修理ありという極めてゆるいルールで運用する「チョコ案」という改善実行の方法を考えて実行しています。
 
 次回からこのチョコ案制度をご説明しながら、「すべての人の参加による改善実行」というテーマで、改めて人財の育成・活用をご一緒に考えていきたいと思います。よろしくお願いします。
 
242-2.jpg

  copyright yukichi 
 

※柿内先生に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。etsuko@jmca.net

 

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