オーナー社長にとって、会社は自分の分身そのものです。ただ、その分身である会社は社会の公器ですし、社長と血縁関係のない他人も働いています。オーバーに言えば、社長は彼らの命を預っているのです。そのため、いくら自分の分身といっても、好き勝手にするわけにはいきません。
会社を犠牲にして、自分の蓄財をせっせと図る社長は失格です。社長は、個人の私利私欲を捨てて、会社が上手くいけばいいという人もいるようですが、私は信じません。
すでに、個人的な蓄財があるひとがこのような話をするのであれば納得します。なぜなら、会社に何かがあったとしても、個人の蓄財で補填が可能だからです。
しかし、創業期や、会社が上手くいっていないとき、個人的な蓄財もない状態で、このような話をする人は、やはり、嘘だと感じてしまいます。
社長と会社のどちらかに偏らないバランスが大事になります。
◆社長の報酬の決め方
贅沢と蓄財は異なります。会計的に言いますと、贅沢は費用、蓄財は資産として区別します。もちろん、贅沢品として例えば、ヨットや自家用機などは資産になりますが、このような本当に高額なものは少し特殊なケースである為、ここでは考えないことにします。
なお、贅沢については、後ほど第5号でお話しします。なぜ、贅沢について、別の号を設けてお話しするかといいますと、贅沢は、連結バランスシートを悪化させるからです。
ここからは社長の蓄財について考えていきます。なお、財産の保全についても別の号でお話します。
上場を考えなくても、社長は売上増大を強く願うものです。そして、最終的には、社長個人の蓄財も考えて行きます。
社長自身が、個人の資産を増やしたいために、会社を犠牲にして、せっせと、会社のお金を個人に回し、それを資金源として、投資に精を出すことはどうなのでしょうか。
会社のお金を社長に回すやり方として、社長の報酬を高く設定することが考えられます。それ以外に、会社が社長個人にお金を貸し、社長がその資金で投資をすることもあります。
会社の赤字の原因の一つとして、社長の報酬が高額だったということはよくある話です。では、利益の範疇で社長の報酬額を決定してもいいかといえば、それでは不十分なのです。
損益計算書も大事ですが、報酬金額の是非を判断する場合、バランスシートに着目しなければなりません。なぜなら、損益計算書は、社長の報酬を減額すれば、容易に利益計上できるからです。
しかしバランスシートはそうはいきません。一度、悪くなったバランスシートの改善は困難なのです。
会社単体のバランスシートが悪化した場合であるならばまだしも、連結バランスシートの状態が困難になれば、改善の余地がほとんどありません。
ここが大事なポイントです。会社単体のバランスシートが悪化してもまだ救いはありますが、連結バランスシートの悪化を改善することは困難なのです。
会社が赤字でも社長への高額な報酬を続けている人もいるくらいですから、損益計算書だけでは歯止めが利きません。だから、連結バランスシートが歯止めとして必要になってきます。連結バランスシートが債務超過に陥りそうな場合は、高額報酬は困難なはずです。
ここで、社長への高額報酬が連結バランスシートに与える影響を考えてみます。
社長への報酬は、資金が会社から社長個人に流れるだけですから、連結バランスシートの現金預金には影響はありません。なお、社長の源泉所得税や社会保険会社負担分は、社長の報酬が高額になれば増加し、同時に預り金が増加するため、連結バランスシートの負債が増加します。
ここでは、社長の蓄財を増やすことを前提に考えているため、報酬を生活費にまわすこと以外、贅沢な支出のためには使用せず、投資等へ支出することを想定します。
社長の報酬は、一部、生活費のために目減りしますが、基本的には資産になるため、連結バランスシート上では、生活費分の資産(財産)が減少する程度ですみます。
しかし、投資にはリスクがつきものです。社長の報酬を投資に回し、連結バランスシート上の投資用資産が増加したということは、それだけリスクが大きくなることを意味しますので、リスクを加味した資産評価を行う必要があります。
このような情報は、損益計算書では無理です。ですから、社長個人や会社のバランスを考えつつ、双方を守るためにも、連結バランスシートでの判断が不可欠になります。
では、会社のお金を借りて社長の蓄財を増やすことはどうでしょうか。
連結バランスシートでは、社長と会社との貸し借りは相殺されますので記載されません。その意味では、社長が会社からお金を借りて社長個人が投資を行うことは問題がないように見えます。もちろん、投資のリスク問題は先ほどと同様、発生します。
◆その投資はコントロールできるか
ところで、投資が上手な社長は、個人的に投資を行い、蓄財を増やすことがあるかもしれません。しかし、社長個人が投資を行うことは、すすめられません。神経が100%経営に向かなくなるからです。
もちろん、気分転換に投資を行い、いい結果が出ている社長もいると思いますが、多くの社長は、投資について苦い経験を持っているものです。特に株式投資はNOです。
仮に投資をするのであれば、経営に通ずるという意味で、社長自らがコントロールできるものに限定しなければなりません。
ですから、社長は不動産投資をする人が多いのでしょう。しかし、不動産のことを何も知らないで、専門家の言いなりになってお金だけを投じることは、社長自身がコントロールしていることにはなりません。
ちなみに、不動産には4つの収入があるといわれています。
①賃料マイナス経費、②目に見えない収入といわれている減価償却費、③ローンを借り手が支払う(投資物件の場合)そして④キャピタルゲインです。
最近は、FX投資をしている人も多いようですが、社長は絶対に手を出してはいけません。なぜなら、ドル、円、ユーロなどは、人が作ったお金なので人間が好きなだけ印刷できるからです。しかし、金や銀などは、欧米的に言えば、神が創ったお金ですので、財産としての価値があります。
不動産以外ですと、自社の株式の公開を考え、資産を増加させることもあるでしょう。
上場準備をする会社によく見られるのですが、とにかく、会社の価値を上げ、株価をつり上げ、自分が保有する株式の時価総額を増加させようと考えます。そのため、無理やり売上を作り、急成長させようとします。
ひとが急に背が大きくなりますと、体のあちこちが悲鳴を上げるように、会社も急成長しますと、よく言われます黒字倒産になりかねません。
ですから、それに気がつく為のブレーキとなる指標がここでも必要になります。それが連結バランスシートなのです。
書籍 海生裕明著『連結バランスシート経営で会社を強くする』好評発売中