仕事柄、いろいろな業種、規模の経営者にお会いします。そんな時、「わが社は特殊・特別だ。そこらの会社と事情がちがう」と切り出される社長は意外と多い です。
しかし、わが社だけが本当に特殊・特別なのでしょうか。
『特殊・特別』を強く主張しておられた事例として、ある病院に新しい賃金人事制度を導入した際の話を紹介しましょう。
「病院というのは特殊・特別のかたまりなのです。お医者さんがいて看護師さんがいる。薬剤師さんがいて、検査技師その他資格を持っている方々 の集合体です。とても複雑で職員を束ねるのに日々苦労しています。何とか病院の特殊性を考慮した賃金制度を作ってもらえないか」との依頼でし た。
そのときの私ども賃金管理研究所からのアドバイスは院長先生、副理事長の想像とはかなり違うものだったかもしれません。
「その特殊・特別に目を奪われていたのでは、ちっとも改善は進みませんよ。いくら工夫してみても、こちらを立てればあちらが立たず。職員の不 満はすこしも解消できなかったはずです。大切なことは仕事の『普遍の部分』を理解し、『特殊・特別』をどのように味付けするかです。
病院といえども、職種を超えた共通の判断基準、つまり『責任の重さ』、『仕事の難易度』から賃金を考えるべきです。その上で仕事力を評価し、 処遇に結び付けていくことで、安心して働ける職場をつくることができるのです。」
院長先生、副理事長、事務長、スタッフ全員が、提案の趣旨を正しく理解してくれました。そして、新しい賃金人事制度を導入して30余年。我流 を入れることなく、モチベーションを高める成績評価制度と併せて賃金人事制度を正しく運用しておられます。
現在、その病院は患者様満足度(CS)で最高位と評価されています。加えて、この病院で働きたい(ES)と希望する看護士さんのウエーティン グリストは1年半先まで埋まっています。
よりよい賃金制度を築くための第一歩は、『わが社は特殊である』という誤解から抜け出すことです。『特殊・特別』と言うまえに、仕事の普遍性 を考えてみてください。職種を越えた共通の『仕事の難易度』、『責任の重さ』が見えてくるはずです。