責任等級制の賃金制度を導入している会社の社長から一度退職した元社員の再雇用について以下のような相談がありました。
「7か月ほど前に退職したA君がわが社に戻りたいと、当時上司だったB課長に連絡がありました。以前であればきっぱりと断っていたのですが、ここまで人不足が深刻になってくると、断るのがもったいないような気がします。どうすべきでしょうか」
「A君は御社に何年在籍し、その間の勤務成績の累積は『おおむね良好』以上だったと評価できますか。周囲、特に直属上司や同僚との関係は協調的で、信頼されていましたか。退社時の振る舞いに悪印象はありませんでしたか」とお尋ねしました。
エン・ジャパンが行ったアンケート調査では、一度退職した社員を再び雇用したことがあると答えた会社は7割以上でした。そして面談のきっかけは「在籍時の上司からの推薦」であり、会社としては「条件さえ合えば再雇用したい」と回答しています。
元社員を再度受け入れることは、会社の理念や風土を理解し、必要な知識を身に着けている経験者、つまり即戦力の採用です。手間と時間とお金のかかる中途採用者の一般募集より、結果を含めてメリットは多いでしょう。特に、惜しまれつつ円満退職した営業職や技術系社員の出戻りであれば、再雇用後の仕事への期待は当然高いと言えます。
「以前と同じ仕事を担当させたいと考えているA君についてですが、給料はどのように考えて決めるべきでしょうか。周囲の厳しい視線とか、本人の出戻りゆえの後ろめたさ等も考えれば、退職時よりも給料は少なくても良いのではとも思えるのですが」
「もしも職種も役割責任も変えない出戻り再雇用であり、A君の仕事力もしっかり分かっているのであれば、退職時の責任等級と号数を変更しない。つまり基本給を維持しての再雇用か良いでしょう」とお答えしました。
なぜなら月例給与は変わらないとは言っても、最初の賞与は金一封となりますから、年収ではかなりの減額となります。正社員としての出戻り再雇用であっても、退職金計算は初年度からのやり直しとなります。年次有給休暇の付与も新入社からの出直しとなり、福利厚生の面でも不利になります。
会社の中には、出戻り社員の再雇用を快く思わない同僚もいるかも知れません。しかし上記のような処遇上のハンデが生ずることも理解した上での覚悟の再就職であることが、かつての同僚たちに伝われば、仕事の仲間が増え、組織として余力が生まれ、戦力アップとなる訳ですから、A君が組織に溶け込むまでの時間はさほどかからないのではないでしょうか。