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社長業

Vol.113 自社商品の根本価値をお客様目線で考える

作間信司の経営無形庵(けいえいむぎょうあん)

 長年、事業をやっていると、自社商品や事業の根本価値について、当たり前に考えていたことや、備わっていなければならない質を、ついつい忘れることがある。
 
 先日、工場訪問させていただいたS社長のお話と製品の仕上げ工程を見せていただいて改めて気づいた次第である。
 
 金型の製造メーカーであるS社は、世界的な企業の直口座をもつ長年の協力企業であるが、海外の工場視察のときに、金型の表面処理によって金型の精度と寿命が延びるヒントを社長がつかんだ。
 
 帰国後、様々な条件や薬品の調合から最適な最終処理技術まで、苦労の末に自社開発するのだが、いざ売る段になると社内から猛反発。「そんなことをしたら売れてる金型の寿命が延び売上がさがってしまう」と。
 
 一理あるし社長も考え込んでしまったそうだが、ここで「お客様の立場に立ってみたら?」と思い、根本価値を見つめなおして決断を下した。
 
 金型の価値とは「一回目と1万回、2万回、、精度のズレがないこと」であると。そして提案し採用され現場からも経営陣からも好評を得た。もちろん、それだけではなく現場の職人さんたちの声にならない要望を丹念に聴き集め、工夫を重ね、今日話題の「見える化」も早くから取り入れている。
 
 現在、その企業の製造ラインで使う金型のほとんどに、S社の表面処理が施され、他社の金型もS社の処理がなければ入らなくなるまでに信頼を得ている。
 
 お客様第一を経営理念に掲げ、本当に考えているかといえば、やはり「目の前の儲け」が先行してついつい自己都合での判断をしてしまう。社員もみんな儲けたいから当然だ。
 
 しかし、深くお客様の懐に飛び込み、社長自ら、お客様に成り代わって自社を見つめ返すと、自社のとるべき道が見えてくるが、そのままでは儲からなくなってしまう。
 
 経営は、そんなに甘くない。
 
 そこで「売手よし、買手よし、世間よし」ではないが、みんなが得をする経営を編み出すところに経営者の手腕や人脈の幅、智恵の豊富さ、実学の勉強が活きてくる。
 
 最近、セミナーにお招きした部品メーカーの樹研工業さんでも、和菓子の三州製菓さんでも、人材派遣会社でも、同じコトを実感した。
 
 今一度、自社商品に対する、お客様の根本的な期待、すなわち、具備すべき価値があるのか?ライバルより勝っているか?期待が変わっていないか?を言葉にまとめてみて欲しい。やるべき事が浮かび上がってくるはずだ。
 
 思い過ごしかも知れないが、そんな社長の共通点に「旅人」がありそうだ。業際に強いことや、自社を離れてみる目は、そんな日常からも培われるのかもしれない。

 

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