スポーツ界におけるコーチの役割はいうまでもないが、会社や組織のリーダーに対するエクゼキュティブ・コーチの存在は、日本ではまだそれほど広く知られていないかもしれない。
私のドイツの友人はそのエクゼキュティブ・コーチ、知り合ったには30年ほどまえだが、既に多くのドイツ財界人を通じ、リーダートレーニングを行ったと言っていた。これは一対一の対話や問いかけで主に社長や取締役、組織のリーダー候補に対するもので、いわゆる多数を対象とした研修とは異なる。
米国に本社を置くグローバル1000企業の93%、米国以外に本社をおくグローバル1000起業の65%がエクゼキュティブ・コーチングを導入しているそうだ。このコーチングについては、日本でも主に外資系の社長をしている友人達との会話でよく話題にのぼった。
ビル・ゲイツ氏はコーチについて 「すべての人にコーチは必要です。私たちには、フィードバックをしてくれる人が必要なのです。 私たちは、フィードバックを受けることで、向上するのです」と述べている。
日本のエクゼキュティブ・コーチの大手、コーチ・エィ。初のコーチ養成機関を設立し、以来15年で7000人以上のリーダー開発の実績をもつ。在日企業のみならず、現在は海外支店長等に対する現地でのニーズが高く、NY、上海、香港、シンガポール等に海外支店を持っているとのこと。少ない日本人で多くの現地人を雇用している現地法人からのニーズは更に増えるのではないだろうか。
コーチに勧められ、鏡で自分の顔を絶えずチェックする社長の話を聞いた。人が話しかけたいと思うような顔になっているかどうかのチェックだそうだ。社員とのよい関係、双方向性のコミュニケーションが会社の業績アップには緊要だからである。社員は自分の話しが上司や役員に通じていないと思うとやる気を無くす。業績ダウン、離職へとつながる。役員とコンタクトを持つ時間とその社員の業績には関連性があるとのこと。つまり、上の人が変わらなければ会社は変わらないのである。こうした事に気付かせるのがコーチの役割。
また、コーチからの優れた問いかけにより、リーダーに「今起こっていること」についての気付きや新しい視点が生まれる。多くの問題が「現状をよく認識できない」或いは先を見通せないことから発生している。コーチの関与で取締役会の雰囲気が劇的に変わった事例も報告されている。Facebookのザッカーバーグ氏、社内が分裂しそうになったとき、コーチのアドバイスによって、社内の凝集性を高めることができたと言われている。
エクゼキュティブ・コーチは一対一の対応となるので費用は嵩む。しかし、リーダーが変わればそれは業績(ROI)に反映される。コーチングを受けることでエクゼキュティブ[役員]は他人の視点で自分をみることができるようになる。その際のコーチはその業界に必ずしも精通している必要はない。例えばGEのウエルチ氏が社長になったときのコーチは28歳の女性だったが、多いにメリットがあったそうだ。
優れた役員であっても自分のことを客観的にみることはできないものだ。自分が社員とどう対応しているのかも第三者の目でみることはできない。実際、エクゼクティブの80%は自分の強み、弱みを誤解しているという。
榊原節子