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戦略・戦術

第十五話 スタッフの対応力こそ商品力①

中小企業の「1位づくり」戦略

埼玉県秩父市に地域密着で業績を伸ばしている葬儀会社があります。

平成11年1月設立

会社名は、株式会社むさしの

設立当時、この地域には葬儀会館があまりありませんでした。

その後、13年、16年、19年に新しい会館を建設していきました。

 

しかし・・・

 

「10年経っても知られていなかった…」

 

「当社は地域の人に知られている。
私たちはそう思っていました。

目立つ看板を設置していましたから。

ところが、創業して10年ほど経ったころでしょうか、
『むさしの会館って、なにをやっているんですか?』
という声を耳にしたんです。

 

名前は知られているけど、何をやっているか、
業種は知られていなかったんです」

 

埼玉県秩父市で葬儀一切を受注し、
葬祭会館を運営する株式会社むさしのは、
秩父地域で施行される葬儀の約3割を担っています。

 

市場占有率1位の状態を維持しているということです。

 

今でこそ地元の人々によく知られているむさしのです。

しかし、実質的に経営をリードする高橋賢司専務が
冒頭で言うように、創業後10年が過ぎても、
同社の存在が地元に浸透していませんでした。

 

私たちが、どこの地域で、どんな方々を対象に、
どんなことを提供しているか。

それらがお客さまに伝わっていないとすると、
これは大きな問題です。

 

そこで、教育に時間と費用をかけるなど内部対策を充実させるとともに、
むさしのは何をやっている会社か、ほかの葬儀会社とどう違うのかを
1市1町の住民に知ってもらうための取り組みに力を注ぎました。

 

無題.png

 

ハード面では勝てない

同業者には新しい、すばらしいホールを持っているところがあります。

他社が店舗を新築し、来店客が増えているようすを目にすると、

「うちも新しくしないと負けてしまう」と思い、

新店舗をつくる経営者がいます。

 

同業者が施設を改築すると、(うちも…)と改築する。
お客さまは新しい店が好きです。

同業者が店を新しくすればそこに行き、
自社が負けじと新しくすれば自社に来る。

 

この流れは延々と続きます。

自社だけにお客さまが集まる理由にはなりません。

 

自社が先に建物を新しくしたとしても、同業者がすぐにまねをします。

自社が設備を新しくしたとしても、やがて同業者も設備を新しくします。

 

あらゆる業種において同じことが言えますが、
とりわけ葬儀業や結婚式場業は、つい施設の新しさに目を奪われがちです。

 

しかし、ハード面は他社のまねをしたところで、
いつまでたっても追い抜くことはできません。

 

目前の競争相手に追いつくことはできるかもしれませんが、
肩を並べたとたん、別の競争相手に抜かれると思ったほうがいいでしょう。

 

 

強みを明確にする

 

そこで、むさしのでは、差別化するため

葬儀に参列した人がちょっとでもいい、一度でもいいから

『あそこは感じがよかった』とか『雰囲気がよかった』と
感じてもらいたい。

雰囲気や人で選んでもらえたらと考えました。
 

ハードでもなく葬儀の内容でもなく、

時間が経っても質が落ちないもの、むしろ年を重ねるごとに
評価が上がっていくことで選ばれる会社になることです。

高橋さんがまず考えたのは、むさしののどこを
どのように気に入ってもらえるかを自覚することでした。

葬儀の際、お客さまに、どんな理由でむさしのを選んでもらえるかという
強みを再認識することからはじめました。

 

「親戚がA社で(葬儀を)した」

「友だちがB社でした」

「会社の人がC社でした」

 

お客さまはいろんな会社の葬儀に参列します。

いくつもの葬儀訪ねた会場を結果、

「この会社はいいな…と、
むさしのを高く評価してくれているお客さまがいるはず」

と高橋さんは言います。

 

「いい葬儀だったな…と感じると、

いつか、どこでかわからないけど、うちのときはここがいいな、

こんな葬儀がいいなと潜在的に選んでいると思います。

選ぶのはあくまでもお客さん、決めるのはお客さんです。

 

出会う人すべてがお客さま

 

むさしのを運営し始めた当初、
「施主さんに満足してもらうことが最重要だと思っていた」
と高橋さんは言います。

 

施主さんは確かに最重要のお客です。
葬儀費用をいただくのも施主さんからです。

 

しかし同時に、葬儀には参列者もいます。
参列者の先には、参列者の家族もいるし、
隣近所の方々もいるし、同僚などもいます。

花や仕出し弁当などをお世話になる取引先もいます。

 

これら施主以外の人たちも、施主と同様にむさしのの社員と接し、
対応を受け、なんらかの印象を抱いて葬儀会場をあとにします。

 

参列者も大切なお客であることに高橋さんたちは気づいたのです。

 

「お客さん全員のことはわかりません。

だから、こう思うようにしています。

いま入ってきた人は、もしかすると、
いままでうちで葬儀をしてくれた人かもしれない。

 

誰もがお客さんの可能性があります。

当社を初めて訪ねた人は、いつかお客さんになるかもしれません。

 

結局、人を差別せず、私たちが日頃、すべての来場者にどう振る舞うか、
どのように人と接するかが重要だと思っています」

 

 

地域の人全てがお客さま

 

むさしのでは、こんなことがあったそうです。

 

ある日、男性から一本の電話。

「相談したいことがあるので、これから伺ってもいいですか」という内容でした。

 

その後、大手運輸会社のトラックが来ましたが、
そのドライバーが、さきほど電話をくれた人でした。

 

運輸会社のドライバーとは接点が数多くあります。
いろんなトラックが荷物を届けてくれます。

 

もし、「荷物? そこに置いといて!」といった対応をしていたら、
むさしののお客になってくれることはなかったでしょう。

 

 

また、私たちは、仕事柄、ひんぱんに電報を受け取ります。

配達してくださる方とは顔なじみですが、
その人の父親が亡くなったとき、むさしのを利用してくださいました。

 

電報配達は当社だけではありません。

同じ地域のほかの葬儀会社にも配達していますから、
他社さんを選んだってなんら不思議ではありません。

 

でも、その配達員さんは当社を選んでくれました。

一番新しいわけではなく、一番安いわけでもなく、
葬儀内容が一番豪華なわけでもありません。

 

いつもいろんな会社に配達していますが、
『家族の葬儀をお願いするなら、ここがいちばんいい』と。

 

 

「どんなささいなことでも、たった一人でも、
『ここは態度が悪い』とか『あいつ、生意気だ』と思われたら終わりです。

 

その人がお客さんになってくれないだけではなく、
周囲の人に『むさしのはやめておいたほうがいい』と言われます。

 

中小が地方で仕事をするということは、こういうことだと思います」

 

むさしのでは、お客さまと接するところの教育に
かなり多くの時間とお金をかけています。

 

 

戦略は見えないものです。
経営者の頭の中に存在するものだからです。

 

商品戦略、営業地域戦略、客層業界戦略など、
何を、どこで、誰に営業し、できたお客さまを維持し、紹介をいただくか。

 

そのやり方は仕組み化され、
戦術を担当する従業員によって、お客さまとの関係が築かれます。

 

ハード面で不利と思われることは、まったく影響を受けることなく、
お客に選ばれる会社に成長したのです。

 

弱みを強みに変える

 

大手葬儀会社は広い駐車場を確保しています。

会場の数が多く、広いので、それだけ参列者の数が多く、

駐車台数も多さが求められます。

 

一方、むさしのは、広い駐車場とは言えません。

はっきり言えば、狭い。

駐車場の広さというハード面だけを見ると、

むさしのは、大手に遅れをとっていると言わざるを得ません。

 

ところが、むさしのを訪れるお客さまから、

駐車場に関して不満の声は一切聞こえません。

 

その理由を、「駐車場が狭いからです」
と高橋さんは言います。

 

「大手は駐車場が広いので、駐車場の係がいません。
お客さまさんが好きなところに停めていい。
好きなように停めていいわけです。

 

でもうちは狭い。
狭いから、どうしても駐車場係が必要です。
こちらにどうぞ、バックオーライと、僕が言うのもなんですが、
うちのスタッフは一生懸命、誘導するんです。

 

お客さまさんが車を停めたあと、受付はあちらですとか、
葬儀のあと帰るときも、お気をつけてなどと声をかけ、
また誘導して駐車場から一台、一台、スムーズにお帰りいただくんです。

 

その対応が、『むさしのさんの対応はいい』とか
『むさしのさんの駐車場は停めやすい』などという評価につながっています」

 

 

つづく

 

 

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