負け犬根性を一掃する
ラグビー日本代表のヘッドコーチに就任したエディー・ジョーンズは、イングランドを舞台にしたワールドカップまで一年となった2014年9月、会見に臨んだ。すでにグループリーグの組み合わせが決まっていた。日本は、南アフリカ、スコットランド、サモア、米国と同じグループとなった。
とりわけ、初戦で対戦する南アフリカは、2007年大会で優勝した強豪だ。
「南アフリカ戦については毎朝、起きるたびに考えている」とエディーは切り出した。
「どうしたら勝てるかを考えている」
ヘッドコーチに就任して一年半、彼は、日本チームに蔓延している負け犬根性一掃に向け、厳しい合宿を繰り返した。
世界の強豪に比べて日本代表は体格面でひとまわり小さい。肉体がぶつかりあうラグビーというゲームでは圧倒的に不利である。
だが、エディーは、体格・フィジカル面での劣勢を言い訳にすることを選手に許さなかった。「できない理由を探すよりも、何ができるかを考えるべきだ」。
一流の専門コーチを雇う
体格の不利を補うためには、持続力とスキルを高めるしかない、と彼は考える。体格差が如実に出るスクラム、ラインアウトの強化、鉄壁のディフェンスを築くために、彼は、それぞれのアシスタント・コーチを世界から招請した。
「アシスタント・コーチを雇う際に心がけたのは、自分より知識が豊富は人を選ぶことだ。自分にないスキルを持つスタッフを集めることを心がけた」という。ともすれば最高指揮官は「自分は何でも知っている」として、専門知識があるアシスタントを敬遠しがちだ。選手がアシスタントの指示ばかり聞くのを嫌がるものだ。エディーは違った。
一流のアシスタントに任せた以上、それぞれの分野の練習で、彼は彼らの指導を否定するような介入はしない。任せきるのだ。
コミュニケーションのとり方
任せきるだけの放任なら、ヘッドコーチはいらない。エディーの手法は、練習に入る前に何がポイントとなるかを話し合い、コーチに任せることにあった。
スタッフ間でのコミュニケーションがあればこそ、この手法は生きる。
コミュニケーション重視は、選手同士でも同じだ。ヘッドコーチ就任前に彼が日本のクラブチームを指導した時のこと。食事の際に選手同士、互いの会話がないことが気になった。みれば、食事を取りながら携帯電話をいじっている。せっかくの意思疎通の機会が生かされない。彼はクラブハウスの食堂に「食堂内では携帯の使用を控えるように」と注意書きを置いた。
「今日の練習で何が足りなかったか」「あそこのプレーはこうすべきだっただろう」。気づいたことを率直に話合うようになった。
「言いたいことは言い合え」―エディー・ジャパンの合宿は、選手それぞれ、そしてコーチング・スタッフたちが、「南アフリカに勝つにはどうすればいいか」という共通の目標に向かう自由な議論の場となっていった。
(この項、次回に続く)
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
※参考文献
『ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズの言葉 世界で勝つための思想と戦略』柴谷晋著 ベースボール・マガジン社