今回見たラインで製造している厚揚げは、写真のような製品形状となっている。写真の製品は、8cm×4cmの厚揚げが1パックに4個入っている製品。現時点の主要製品は同様のパッケージに8cm×8cmの製品が2個入ったものである。ただし、8×4が4個の製品のほうが使い勝手がいいことから、徐々にこちらの製品に入れ替わっている。さらに、現状ではこの製品のパッケージ形状を2連式にして、片方を使っても、片方は未開封のままにできることから、さらに使い勝手が向上する商品に入れ替える方向にある。
現時点で工場ラインの完全自動化はシングルパッケージの4個入まで進んでおり、ツインパッケージの4個入に関しては人手によるパッケージングとなっている。そこで、現在はこのツインパッケージの自動化に取り組んでいる。現在、ツインパッケージは時間当たり2,500パッケージの製造にとどまっているが、自動化が完成すれば時間当たり5,000パッケージと倍増する。
すでに述べたように同社は効率性が上がる装置が完成し、その装置によって生産性を高めるがそれに加えて、同社製品に対する顧客の反応を見ながら、より顧客にとって利便性の高い製品に入れ替え、さらにその自動化を進めるという一連の作業が、極めて短時間で進む流れとなっている。このことが、コスト以上に同社の競争力を高めるものとなっている。
豆腐の製造装置メーカーはトップ企業でも年商40億円ほどである。装置メーカーとすれば、自社で開発した既製品をそのまま買ってもらうのが一番いいのは言うまでもない。しかし、同社は既製品ではなく、工場の生産性を上げるために、次々と新しい機能の装置やハイスピードの装置、または大規模な装置の開発を依頼することになる。
装置メーカーとすれば、そこまで必要かという機能を要求されることになる。それゆえ、同社にとって最も苦労することは、装置メーカーの開発者にいかにその気になってもらうかであると社長が述べている。なだめすかしながら、少しでも時間短縮できる、または人を減らせる装置をメーカーと一緒になって開発している。その代わり、開発に係るリスクは同社が負うということである。
こうして、出来上がった装置は、同社工場で試験を繰り返して、導入するのであるが、独占的な購入権があるわけではなく、装置メーカーは他社にも販売可能である。しかし、全く新しい装置も同社工場の仕様と思考に合わせているため、他社が思考の方向性を同社に合わせるのに時間がかかり、大まかに言えば、他社が導入するまでには2年ほどかかるとのこと。
また、同社並みのスピードで製造装置を入れ替えるためには、高収益を達成している必要がある。しかし、同社の前期の営業利益率は10.9%であるが、豆腐業界では売上高400億円ほどのトップ企業でも利益が出ているかどうかわからない程であり、そう簡単に次々と装置を導入するのは難しいと考えられる。
さらに同社では、当然豆腐業界では先頭を走っているのであるから、工場の運営に関して豆腐業界には参考になるものはないので、社長みずから他業種の工場見学に行って、機械そのものや製造工程、工場全体の管理法など参考になるものを探し回っているということであった。
確かに、他の食品メーカーの工場では、どのラインで今、何がどれだけできているかとか、一目でわかるような電光掲示板があったりするが、同社の工場ではそこまでの機能はなかったように感じた。しかし、逆にそれは、依然、省力化や合理化余地が無限にあることを意味しているとも言えるものである。まさに、5年先、10年先の同社工場の変化が今から楽しみである。
有賀の眼
印象からいえば、食品工場は最先端技術を競うような半導体や電子部品などとは全く異なり、生産技術の差によって大きな競争力格差はつかないように思われる。むしろ、そんなことよりもブランド化や広告宣伝の巧拙によって差がつくのではないかと考えがちである。しかし、逆にそれがある面、一般論ゆえ、工場での生産性で格差をつけることができると、長期的な競争上、極めて有利な状況が構築できるのである。
その典型的な例が天然調味料メーカーのアリアケジャパンである。同社は自動化が不可能と思われていたエキスの抽出工程以降のすべての製造ラインの自動化に数十年前に成功し、今や日本のみならず、世界でも圧倒的な競争力を持つ天然調味料メーカーとなっている。その結果、売上高営業利益率は14.4%と極めて高水準である。このケースはかなりやまみと似ているケースであり、いわば、やまみは第2のアリアケジャパン的な企業と言えよう。
一方、プリマハムのケースは状況も立場も全く異なるケースと言えよう。業界4位でつぶれる寸前までいった同社であるが、工場の生産性改革に劇的に成功し、コスト競争力で上位企業を圧倒するようになっている。食品業界ではアサヒビールやカルピスなどブランド価値の再構築で劇的な変化を遂げた企業はあるが、生産性向上で劇的に地位向上を成し遂げた極めてレアなケースである。なんと、この生産性向上によって、2011年度に大手4社(同社、日本ハム、伊藤ハム米久、丸大食品)内シェアが12.9%と最下位であった同社が2023年度には22.5%と第3位に浮上し、第2位の日本ハムの27.0%さえ、射程圏に入れつつある。
このローテク分野での生産技術の磨き込みは、そのような発想を持つ人がレアであることから、予想外の大きなリターンをもたらすのではないかと思われるのである。ほんのちょっとした発想の転換で劇的に変化する可能性を秘めていよう。
やまみの社長との会話で印象深いことは、今後の工場の自動化余地はどの程度あるのかという問いに対する回答である。創業者の会長からは、回転ずし店に行ったら今や入店のチェックから席への誘導、注文、会計まで全く人手を介さない仕組みになっているじゃないかと言われ、同社工場でもそれを目指すんだという檄が飛んでいるとのことである。
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