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- 社長の右腕をつくる 人と組織を動かす
- 第164回 『忠告者は自分の財産』
「幾何学の世界では、AとBの最短距離は直線である。
しかし、ビジネスの世界では、最短距離が必ずしも直線とは限らない。
山、他に、行け、崖…があって、
直線で進めない時はむしろ曲線が正解かも知れない・・・」
ある商談を手早くまとめようと多少アセリ気味だった30代の私に、
その頃としては耳の痛い、
しかし適切なアドバイスを同じセクションの先輩からもらった。
続けて先輩は、
「鉈(ナタ)になってもカミソリになるなよ。
大きな仕事をするには、持久力を使って鉈になれよ」
と、肩を叩いてくれた。心の中をさわやかな風がよぎった。
城山三郎氏が『晴れた日の友』というエッセイの中で、鈴木健二氏の言葉を借りて
=井戸を掘っていた時は助けにも来てくれなかったくせに、水が出たとなると寄ってくる=
人間の浅ましさを書いてくる。
「まさかの時の友は真の友」というが、
損得関係なく心が通じ合う友(私は《心友》と呼んでいる)は大事にしたいものだ。
あなたは、自分の痛いところを指摘してくれる人を、何人もっているだろうか。
人生の先達としての指導者は、求めてでも持つようにした方がいい。
それは、学校や会社の先輩かもしれないし、自分の親かもしれない。
指導の範囲は、仕事上のことでも生き方に対してでもどんなことでもいい。
忠告をしてくれる先達・友人をもつことで、
どんなに自分の生き方を意味あるものにしてくれるか。
これには測りしれぬものがある。
父からは、
「利害損得に関係なく、信用できる友人は、お前の財産だ」
と、友達を大切にすることを小さい時から言われ続けた。
また、
「人が注意してくれる間が華だぞ。言われたことに反論や弁明をしていると、
いずれ誰も何も言ってくれなくなってしまう。助言は有難く素直に聞けよ」
と。
血気盛んな20代ではさほど思わなかったが、いま振り返ってみると、
その時々のアドバイスがいかに今の自分に影響を与えているかがはっきりわかる。
吉川英治氏の、《我以外皆我が師》という私の好きな言葉があるが、
どんな人間でも、何か一つか二つは参考になることがあるものである。
ユダヤ教には、ラビ(Rabbi:立法博士)という存在があり、
英語ではギリシャ神話に由来するメンター(Mentor)という概念があるけれど、
私たちは、《自分にとってのラビ》《自分にとってのメンター》を
ぜひ持ちたいものである。
ラビやメンターを、どうして発見するのか。
20%は運も作用するが、80%は自分の努力による…と考えるのが正解だろう。
私の場合は、昔からの心友も何人かおり、
そのほか、経営者、東洋学の大家、禅僧、評論家…など、
多くのメンターに恵まれている。貴重な財産である。