“欠陥を持っていることは素晴らしい。
自分で何でもやっちゃ、部下もついてこないよ。
知らんことを旗印にしてごらんなさい、と言いたい”
ホンダの創業者である本田宗一郎氏の言だが、ビジネス社会においては、
自分の欠陥や弱点をさらけ出せるのも、ある種の「強さ」になるものだ。
ビジネスマンとして、同僚などライバルに負けたくないという気持ちを持つことはもちろん大切だ。
だが、スキを見せまい と、弱点を隠すことに汲々とするようではやぶ蛇になりかねない。
弱点を明らかにすることによって、弱点さえ味方にしてしまう。
とりわけ、上に立つほど自分の弱点をさらけ出す必要性に迫られる場面が多くなってくる。
たとえば、松下幸之助氏などはろくに学校を出ていないことを逆手にとった。
“学校に行ってへんのだから、そんな難しい言葉でいわれたらわからへん。もうちょっとわかり易く言うてんか”
よくこう言って役員たちをギャフンといわせたそうだ。
わかり易い言葉で説明できないのは、本当に理解していないから、というこ とを見抜いていたからだろう。
かくいう私自身、ある時期まで、同僚の誰にも負けたくないという、まことにライバル心の旺盛な男であった。
同時に、欠陥や弱点だらけの人間でもあった。
「せっかち」「しつこい」「短期」「自信過剰」「自分勝手」「理屈をこねる」…。
欠点や弱点については、ここでは書き切れないほど、周りから指摘されたものだ。
中には、“欠点や弱点をあげろ、というく せに、決して直そうとしない”という、決定的な欠点もあった。
ことほどさように、欠点や弱点は誰にでもあるといえば、読者にとって迷惑だろうか。しかし、ここで悲観してはいけない。
私は前述したように、負けん気が人一倍強かった。
そこで、若い頃は自分の欠点を隠そう、隠そうといった態度に終始していた。
それがあるとき、何かをきっかけに、「もういい。本当の自分を出そう」ということになり、気持ちがいっぺんに楽になった。
それ以来、「私はこういう人間である」と努めて部下に明るく宣言するようになったし、「この問題については私は本格的に
勉強していない」とも正直に言えるようになった。そのことで、逆にどれだけ部下が私をフォローしてくれるようになったことか。
欠点を直し、弱点を克服しようとすることは大切だが、そうはいっても、なかなか直せるものではない。
それならば、弱点は弱点としてさらけ出す、これも部下掌握術ではなかろうか。
“俺は欠陥だらけの人間だ”と言ったところ、“そういうのが最大の欠陥だ”と言われるのでは、オチにもならないが…
新 将命