通常、資金調達といえば、金融機関からの借入れが最初に浮かぶひとも多いでしょう。
借入れは会社にとってみれば負債です。負債は、将来的に支出を伴うものなので、資金調達からすれば、本当は好ましくありません。しかし、やらざるを得ないこともまた現実なのです。
◆社長と会社との資金移動
オーナー社長と会社との間の度が過ぎた資金移動は確かに問題ですが、社長と会社は一心同体であるが故の社長と会社間の資金移動を否定してしまえば、中小企業は経営していけない時期があることはすでにお話ししました。
創業期や会社の業績が落ち込んだ時は、会社を少しでも早く軌道に乗せるべく、社長は全神経を会社の運営に向けることになります。この時期は、社長はなんとかして会社に資金投入を図ることになります。
設立当初のように売上がなかなか見込まれない場合は、必然的に他の資金投入になります。社長は、個人的な生活を考えながらも、出来る限り、会社に資金を投入します。
この場合、貸付の形がいいのか、出資の形がいいのか、迷った場合は、ひとまず、会社への貸付としておいたほうがいいでしょう。会社からすれば、社長からの借入れです。この借入れは、資本金に振り替えることも可能ですから、先ず、社長は貸付としておきましょう。
とは言うものの、社長の資金だけでは限界が生じてきます。かといって、一般的には、設立間もない会社に対して金融機関は融資をしません。ですから、社長自らが、金融機関以外の、例えば知人や友人、親族などの第三者に頼みに行くことになります。
この場合、第三者から社長がお金を借りて会社に流す場合と、第三者が直接、会社にお金を入れる場合があります。
連結バランスシートを作成しますと、どちらも同じ結果になりますので、この意味では、どちらがいい悪いとの判断は出来ません。
社長が借りる場合でも、金銭消費貸借契約書は必ず作成する必要がありますし、保証人又は担保を提供することもあるでしょう。この場合、担保対象は社長個人の資産になります。保証人は会社です。
第三者が会社に直接、融資する場合は、社長を保証人にしたり、社長の資産を担保に入れることになります。もちろん、無担保無保証の場合もありますが、金銭消費貸借契約書だけは絶対に作成しておくべきです。
◆社長と会社のバランスを考える時
会社が順調に伸びて、現金預金も増えてきた段階になれば、社長の個人的な借入れ等、お金に関する過去のつけを精算することができるようになります。
社長の個人的な借入れは、連結バランスシートに記載される為、会社の現金預金で社長個人の借入れ等の返済原資にしてもいい時期が来たといえます。
社長の借入れを精算しても連結バランスシートの財産は変化しません。社長個人の借金が減少し、それだけ、会社の現金預金が減少するだけです。ですから、これの資金移動はやってもいいことになります。少しでも社長個人の負担を減少させることも、心の安定に繋がってきます。
このように、社長個人の負担が少なくなってから、社長個人と会社のバランスを考えることになります。
会社から社長個人にお金を貸し、社長が現金預金として保管しているのであれば、連結バランスシート上では、何も変化はない為、問題ではありません。
社長個人がこのお金を何かに使用した場合に、歯止めが必要になってきます。
例えば・・・
社長個人の生活費にあててお金が少なくなる。
投資が失敗して損失が膨らむ
この様な場合は、連結バランスシートが確実に悪化していきます。
会社のバランスシートだけでは、社長個人の投資の失敗や派手な生活は反映されません。会社に資金があっても、社長個人が失敗して、社長の穴埋めに会社の資金を使用されることもありえます。
その前に、社長の行動に歯止めが必要になってくるのです。こういった場合も、連結バランスシートで判断する必要があります。
◆常に、連結バランスシートの状態を意識した経営を!
会社のお金を社長に流す場合でも社長と会社の連結バランスシートで、本当の財務状況を判断しながら実施することになります。
社長個人の預貯金が枯渇し、個人的な借金を会社以外から行えば、連結バランスシートの負債は、会社の第三者からの借入金と社長個人の借入金の合計になるため膨らんでしまいます。
では、社長に現預金がなく、会社から資金を流し、その資金を何かの返済に使うか生活費に使った場合はどうなるでしょうか。
社長への貸付金と会社からの借入金は相殺消去されるため、連結バランスシートには計上されません。会社から流れた現金預金を社長が使用しなければ、連結バランスシート上の現金預金も変化しません。
社長が個人的な未払いや借入れ、つまり負債の返済に使用する場合であれば連結バランスシート上の財産は変化しません。なぜなら、現金預金は減少しますが、社長の負債も同額減少するため、結果、財産金額には影響しないためです。
問題は、社長が生活費等で使った場合です。この場合、同額の現金預金が減少し、連結バランスシート上の財産も同額減少してしまいます。
これにより、連結バランスシートが債務超過状態にならないようにしなければなりませんし、その前に、連結バランスシート上の最低必要な財産額を決めておく必要があります。
社長危機の場合に、会社の資金を無尽蔵に流出すれば、連結バランスシートは債務超過に進んでいくことでしょう。間違いなく社長と会社は共倒れです。
逆はどうでしょうか。
会社危機の場合は、社長はどうすればいいのでしょうか。
まず、連結バランスシートで確認します。社長個人のバランスシートの状態がよければ、たとえ、会社のバランスシートの状態が悪くても、連結バランスシートは会社単独のバランスシートよりよくなります。
この場合、安易に社長個人の資金を会社に投入しないことです。なぜなら社員が社長の個人資産を当てにしてくるからです。こうなってきますと、資金に関する緊張感が無くなります。これが連結バランスシートの一番の弊害になります。
とにかく、連結バランスシートが債務超過になることだけは避けなければならないのです。
◆連結バランスシートにも限界がある
頻繁に社長と会社との間で貸し借りがある場合、月末にはちゃんと精算しますと残高試算表には貸し借りは記載されません。もちろん、連結バランスシートにも記載されません。しかし、このような社長と会社との間での頻繁な資金移動はとても危険なのです。
社長が個人的に友人等との間で、資金を融通し合っている場合、このようなことがよく見受けられます。
この場合に見るべき試算表は残高試算表ではなく、合計試算表で確認する必要があります。
合計試算表は、月間の取引のボリュームを表します。バランスシートの残高は、その性質上、あまり変化はしないので見落とす可能性がありますが、月間の取引の大きさが極端な場合は、それをストップかける必要があります。
さて、誰がストップをかけてくれるのでしょうか。
社長は無理です。経理はどうかといいますと、基本的には無理でしょう。そうなれば後は、会計事務所の専門家に期待したいものです。この点は、また後ほどお話します。
もちろん、連結バランスシートだけで会社の運営をすることは、なかなか困難です。
その理由として、まず、このような経験が社長だけでなく、他の役員や社員にないためです。また、連結バランスシートには、社長の個人情報、それも財産情報が含まれていますので、誰でも見ていいものではありません。
社内でも、本当に信頼できる人、たとえば、後継者や経理担当者に限られます。また、連結バランスシート作成には、会計事務所の関わり合いが不可欠になります。
社長は、連結バランスシートの秘密情報を守る体制固めをしておかなければ、この情報が漏えいされ、大変なことになってしまいます。それだけ重要な情報なのです。
これらのことから、社長個人と会社のバランスをとるためにも、常に、社長は、連結バランスシートの動きを確認しておく必要があります。
そして会社のバランスシートも一か月単位でその動きをチェックしなければなりません。ですから、会社の試算表は、翌月5日以内に作成しなければならないのです。会社の試算表が作成出来れば、あとは、社長個人のバランスシートを手続きにのっとって作成すればいいのです。
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