其の三十六(1) 事業承継は税金対策と考えるべからず
親族の承継が40%程度に落ちているそうです。それだけ、事業承継が厳しいということなのでしょう。
この事業承継ですが、手順があります。そして、3年間程度の期間を費やすという時間的余裕が必要です。
この3年間は、事業自体の承継や税制においても大切な数字になります。
事業承継の手順ですが、最初に考えるべきは、文字通り、事業の承継ということです。
そのために、まず、現在の事業の存在価値、使命を明確にすることがなにより大切です。そして、売上の基礎となる儲かる仕組みの再構築を図っていくことになります。
後継者にとって誇りの持てる事業にすることです。
そして次に、支配権つまり株式取得をどうするかを考えます。そして最後に自社株を含めた財産の実際の承継です。
これらすべてバランスシートのことばかりです。ですから、事業の承継は、バランスシートの承継といってもいいくらいです。
売上の承継はもちろんありますが、これは会社が存続している以上、事業承継という問題でなくても起こることです。
突然の先代の死によって、準備もなく後継者となることもあります。
私の知り合いも数人、二十代でいきなり、父親の死により父親の会社を継ぎ、社長になった人がいますが、いずれもうまくいっています。
それは、相当の覚悟があったからだと思います。
いくら社長の息子だとは言え、長年、働いている年配の方も大勢いるわけです。簡単に、社内を統率できるわけがありません。
皆、数年はかなり苦労したそうです。
ある方は、経理から入り、じっくり、会社の現状を把握することから始めたそうです。別の方は、営業から入りました。単純な話、業績が悪化していたからです。
ただ、いずれも、銀行との交渉は苦労したそうです。
ですから、名実とともに社長になるためには、銀行からも社長として認めてもらう必要があるのです。
ところでオーナー社長が引退できない理由として何があると思いますか。
まず、金融機関からの借り入れがあります。もちろん、中小企業の場合は、上場会社と異なり、多くの場合、社長が連帯保証人になります。
息子が社長になるからといって、銀行は、父親の連帯保証を外したがりません。これが、なかなか事業承継がスムーズにいかない大きな原因となっているのです。
他にも、従業員の生活の心配等もあります。
意外と多いのは、社長自身が社長を辞めたくないことにあるようです。
また、事業を引き継ぐためには、営業力や人脈の引継ぎもありますが、金融機関との関係づくりがやはり大きな要素になります。
早めに後継者とともに銀行に同行し、社長から後継者に連帯保証を移す理解を銀行にしてもらう必要があります。
事業の承継がバランスシートの承継ということは、次のようなことにも表れてきます。
それは経営権の支配の問題です。
昔に設立した会社の場合、設立するために発起人が最低7名必要だったはずです。創業者が資金を全額出し、名義を借りて発起人になってもらい設立したケースはとても多かったと思います。
発起人は設立後、株主になります。事業の承継において、時として、この名義だけの株主が牙をむくことがあります。
株式公開会社以外の会社を閉鎖会社といい、中小企業は閉鎖会社であることが多く、通常は、株式譲渡制限があると思います。
この閉鎖会社は、株券の不発行が原則です。しかし以前から設立している会社のほとんどが株券を発行するという条文が定款に記載されています。
にもかかわらず、株券を発行していないということは法令定款に違反することになり、株主代表訴訟の餌食になります。
代表訴訟は13,000円程度で提訴可能なので、代表訴訟の実に80%が中小企業だといわれているのです。
利益が上がり、株式に価値が出てきますと、名義株主の態度が一変してくるかもしれません。
ですから、速やかに、名義株の名義を社長に変更しておく必要があります。
その際、設立時に、社長がすべて資金を出していたならば、単純に名義を変更するだけでいいと思います。
といっても、実際には、中小企業の多くは株主名簿の作成をしていません。ですからせいぜい、確定申告書の株主記載欄に社長100%と書く程度でいいかと思います。
もちろん、設立時に出資金を出している場合は、出資金額と同額の金額で買い取ることが一番です。
財産権のお話しは次回にいたします。