創業して5年のスタートアップ企業の佐藤社長。取引先の増加とともに、取り交わす契約書も増えてきた。そこで、賛多弁護士と顧問契約をして、契約書のチェックを依頼することにした。
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佐藤社長:契約書を賛多先生に見てもらい、指摘を受けたところの修正を先方に依頼するのですが……ほとんどの場合、修正してくれません。
賛多弁護士:こちら側が依頼する修正は、「こちら側には有利に、先方には不利になる内容」です。そのため、こちらの立場が弱い場合は、そう簡単には修正に応じてもらえません。
佐藤社長:だったら、わざわざお金を払って契約書をチェックするのは無意味でしょうか。
賛多弁護士:それは違います。契約書のやりとりをすることによって、先方の「性格」が見えてきます。たとえば、一方的にこちらに不利な内容の契約書を押しつけてきて、合理的な修正に応じてくれない相手の場合、会社の姿勢というか「性格」が、自社中心で強引なものであることが予想されます。もちろん佐藤社長が経営者として、そういう相手であったとしても、契約をしたい場合もあると思います。その場合であっても先に相手がそのような「性格」だとわかった上で契約をした方が、リスクに備えられますよね。
佐藤社長:ほかにも、契約書チェックからわかることがありますか。
賛多弁護士:逆に、合理的な内容の契約書を提示してくる相手は、合理的な「性格」であることが多いです。また、できがよい契約書を提示してくる会社は、バックオフィス部門に予算を割いて、よい弁護士に依頼している可能性が高いことから、コンプライアンスに厳しいだろうということがわかります。
佐藤社長:弁護士は契約書をそういう目でも見ているのですね。
賛多弁護士:契約書のチェックはその内容の確認が主な目的ですが、それ以外にも、相手の性格や法務のレベルが見えてきます。そして、万が一紛争が生じたときのその会社の「でかた」も見えるものです。
佐藤社長:そうなんですね。これからは、契約書を見ていただいた時には、内容の確認はもちろん、それ以外についても先生と話すようにしていきますね。
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契約書の内容確認は法務の仕事の基本です。最初のうちは契約内容の有利不利が気になることが多いと思いますが、実は、それ以外にも契約書のチェックについて顧問弁護士と話すことで得られる情報は多いのです。逆にいうと、先方にそれなりの法務知識がある場合は、こちら側の「性格」までをチェックしている可能性が高いと思われます。契約書の確認は基本的ですが、奥の深い社長のテーマです。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 竹内 亮