新しい価値観をどんどん取り入れていくことができるのが若者たち。若者たちの中でも、トレンドを握り消費を動かすパワーを秘めた女性たちの《インサイト》に注目すると、新しいヒットを創るヒントが見えてくる!
※本コラムは2021年1月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。
ものが売れにくい時代でも、ヒットする商品は日々生まれています。
どうすれば売れる商品をつくれるのか。その秘訣は、正しい「ターゲット」と「セールスポイント」を見つけるということに尽きます。「ターゲット」は、商品・サービスを買ってくれるお客さんのことです。「セールスポイント」はいわゆる和製英語で、さまざまな解釈がありますが、ここでいう「セールスポイント」は売り手から消費者の買いたい欲求に訴えかけて、購入や利用を促すことができる提案であると定義します。
広告関係者のいう「訴求ポイント」、マーケターの言う「USP」と同じような意味合いの言葉だと思ってください。同じ商品でも「ターゲット」と「セールスポイント」を正しく設定するだけで、売上が何倍にも跳ね上がることは広告業界では常識です。とはいえ、実は正しい「ターゲット」と「セールスポイント」を見つけること自体がとても難しく、一筋縄ではいかないものです。簡単に見つかれば、誰も苦労しません。
そこで2021年は、適切な「ターゲット」と「セールスポイント」を早期に絞り込めるようになる技術を紹介していきしたいと思います。
●商品を変えずに売り方を変えて女性たちにヒットしたワークマン
「ターゲット」と「セールスポイント」を適切に設定したことで売れた事例にはどんなものがあるでしょうか。
最近の事例では、作業服専門店のワークマンが、「作業服」という商品を変えないまま、「アウトドアウェア」として「ターゲット」と「セールスポイント」を変えて成功したことが話題に上っています。
ワークマンは「ターゲット」を仕事で作業服を買う職人客から一般客に拡大します。
一般客へはどんな「セールスポイント」を打ち出せば売れるのか。ワークマンが一般客のアパレル市場の競合を、高いか安いかという価格の軸に加え、機能性という軸を加えた4象限で競合を割り振ったところ、「低価格」と「高機能」を両立させたブランドが競合のいない「ブルーオーシャン」であることに気がつきます。
具体的には、耐久性・防水・はっ水などの、作業服を作るために磨いてきたワークマンの服の機能性を「セールスポイント」にすると、ユニクロなどの人気マスブランドと差別化ができ、さらに作業服の圧倒的な安さも「セールスポイント」として押し出すと、スポーツメーカー、アウトドアメーカーとの競争も避けられるということを見つけたのです。そこから売るための戦略を立てていきます。
当初、「ワークマン」という名前は一般客には古臭いと思われて、受け入れられないのではないかと考え、名前は「WMプラス」にして、サイトからも「作業」「仕事」というキーワードは削ろうと考えていました。
しかし、ワークマンには「プロが愛用している職人品質」というブランド力があり、それこそが一般客向けに強い「セールスポイント」になるということを突き止めます。そこで、敢えて「ワークマン」という名前を冠してこれまでとのギャップを演出していく戦略を選択していきます。(「『ワークマンはなぜ2倍売れたのか』 酒井大輔著・日経BP」をもとに筆者が作成)
結果、新業態「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」はアパレル不況といわれる中でも売上を2倍に伸ばすことに成功。今やあのユニクロをも脅かすブランドに成長したとして、注目を集めています。
さらに女性に人気の商品を抽出し、内外装を女性向けに変えただけの「#ワークマン女子」を2020年10月に開店すると、整理券が瞬く間に無くなり、入店3時間待ち、初日の売上高は目標の2.7倍を記録しました。
●「セールスポイント」を絞り込んでいく生活者インタビューのコツ
「ターゲット」に向けて、「セールスポイント」を絞り込むためのインタビューをするときに、質問力を高める3つのコツをお伝えします。
①「なぜ」「具体的に」「詳しく」を使って掘り下げる
②一般論を言わせない、その人の「事実」のみにフォーカスする(時系列に注意)
③もし〇〇が実現できるなら?をぶつける
例えば、あなたが「つけまつげ」を製造するメーカーで、もっと売り上げを増やしたいと考えていたとします。良くないインタビュー例から見ていきましょう。
〈良くないインタビュー例〉
質問者「あなたはつけまつげを買うことがありますか」
回答者「つけまつげは、私には合わないので使いません」
質問者「なるほど。それでは次の質問です。普段アイメイクで使っているアイテムは何ですか」
これだけで終わってしまっては表面的なファクトしか引き出せず、「セールスポイント」を絞り込むことができません。「私には合わないから使わない」ということだけが分かっても、それだけでは当たり前な情報だと思いませんか。
そこから、どんな「セールスポイント」にすれば買ってもらえるのか、そしてそもそもこの顧客は「ターゲット」になりうるのかを、判断するには情報が足りないと感じませんか。
回答の内容をもっと「深堀り」して情報を増やし、回答内容の解像度を上げていく必要があります。「私には合わないから使わない」というのは氷山の一角のように、ほんの少しの部分的に顕在化した意識だと思ってください。
その下に眠る潜在的な意識(インサイト)を深掘りしていく必要がある、というようなイメージです。そこで、一つ目のコツである深堀りのキーワードを使っていきます。まずは「なぜ」です。
〈「なぜ」で掘り下げたインタビュー例〉
質問者「あなたはつけまつげを買うことがありますか」
回答者「つけまつげは、私は合わないので使いません」
質問者「なぜ、合わないと感じるのですか?」
回答者「今私がしたいメイクの感じと違うんです」
質問者「なぜ、メイクの感じが違うと感じるのですか?」
回答者「派手だからですかね‥今はナチュラルメイクがトレンドじゃないですか」
なぜを2~5回、少ししつこいかもしれないくらい繰り返すと、どんどん回答者の意識の深いところが言語化されていきます。
また、インタビューを続けていくとあいまいなキーワードがたくさん出てきます。例えばここでも「派手」「トレンド」という言葉が出てきました。
他にも、「良い」「良くない」「使いやすい」「使いにくい」「好き」「嫌い」「普通」「微妙」「かわいい」「安心」「みんなが」などなど、詳しく具体的に言語化する余地のありそうな言葉は、会話の中には頻出します。
あいまいなキーワードが出てきたときは、深掘りキーワードの「具体的に」「詳しく」の出番です。
〈「具体的に」「詳しく」で掘り下げたインタビュー例〉
回答者「派手だからですかね‥今はナチュラルメイクがトレンドじゃないですか」
質問者「派手というのは、具体的にどんなイメージが浮かんでいますか?」
回答者「ギャルですね。ちょっと古いメイクというか。」
質問者「古いメイク、と感じる理由についてもう少し詳しく教えてください。」
回答者「私も10年前は、ギャルメイクしてたので、そのときは使ってたんです。高校で流行っていて。その頃のイメージが強いです。」
質問者「なるほど、10年前はつけまつげを愛用していたのですか?その頃のイメージについてもう少し詳しく教えてください。」
回答者「使ってましたけど、イメージは良くないです。」
質問者「具体的に、どんなイメージがありますか」
回答者「とにかく使いにくいって感じです。」
質問者「使いにくい、についてもう少し詳しく教えてください」
回答者「難しい、時間かかる、目に異物感‥とかですかね。」
このように掘り下げていくと、以下のようなことが見えてきます。
・つけまつげのイメージが10年前のギャルブームの時代で止まっているので、そのときの派手・難しい・時間かかる・目に異物感といったネガティブなイメージをいかに払拭するかが課題。
・つけまつげの進化した特徴をアピールすることができれば、それがセールスポイントになる。トレンド的には「ナチュラルメイクに合う」ことがセールスポイントになる。
・つけまつげのネガティブイメージを払拭できれば、離脱してしまった層も、ターゲットになりうる可能性がある。
「インサイトを深掘りする」ということのイメージがわいてきましたでしょうか。インタビューを続けていく中で、ありがちな失敗もあります。
〈良くないインタビュー例〉
回答者「難しい、時間かかる、目に異物感‥とかですかね。」
質問者「逆につけまつげの良いイメージは何かありますか」
回答者「写真映えは、しますよね。」
質問者「今でも、写真映えしたいシーンで、つけまつげを使いたいと思うことはありますか。」
回答者「インスタグラマー目指している女子なら、使うんじゃないですか。」
このインタビューの何が失敗なのかというと、「話が一般論に逸れてしまった」ことです。「私は使わないけど、使う人いるんじゃないですか」「私は使わないけど、こんな人は使うのでは」という意見は、推測の域を出ないので情報として役に立ちません。
他の人のことではなく、世間の一般論ではなく、回答者自身の感じたこと、事実に焦点を戻すことが必要です。
ただ、聞き方として「一般論はいりません」という伝え方をしてしまうと会話の空気を壊してしまうので、「確かにそういう人もいそうですね。ちなみに、あなた自身がどうかについて教えてください。」のように、やんわりと本人の話に戻していきましょう。
さらにインタビューを続けていく中で、「もし〇〇が実現できるなら?」をぶつけることも、「セールスポイント」の絞り込みに役立ちます。
〈「もし〇〇が実現できるなら?」を使ったインタビュー例〉
質問者「なぜ、つけまつげを使わないんですか?」
回答者「派手なイメージがあるので使いません」
質問者「もし、ナチュラルなデザインのつけまつげがあったら?」
回答者「つけまつげは時間がかかるので‥」
質問者「もし、数秒で簡単につけられるつけまつげがあったら?」
回答者「不器用なので、取れてきてつけまつげだとバレたら嫌なので‥」
このように掘り下げていくことで、回答者が感じているハードルは「派手」だというだけではなく「時間がかかる」「取れそう」「バレそう」というハードルもある、という本音を引き出していくことができます。
単純に「この商品を買いますか」と聞いただけでは、その回答の「買う」「買わない」が本音なのか本音ではなさそうかは判断することができません。
ただ、回答をどんどん掘り下げて、回答者の行動などの「事実」にフォーカスしていくことで本音は見えてくるのです。
そんなインタビューを繰り返すことができるようになれば、精度の高い「ターゲット」「セールスポイント」にたどり着くことができるでしょう。
新しい時代のインサイトを抽出し、潜在的なニーズに応えられる「セールスポイント」を打ち出せる商品をつくれると、ヒットを生み出せます。ぜひ、このノウハウを活かしてみてください!
阿佐見綾香(あさみあやか)
電通ギャルラボ研究員。若年女子研究を専門とする。 ストラテジック・プランナーとして、企業や商品・サービスのマーケティングや商品開発、リサーチ、企画プランニング、コミュニケーション戦略立案などを担当。 電通ダイバーシティ・ラボ研究員としても、マーケティングの最新トピックであるLGBTに取り組み、みんなが楽しく暮らせるダイバーシティ社会の形成を目指す。
※本コラムは2021年1月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。