さて、先回はレベル4についてご説明しましたが、今回はレベル5についてお話しいたします。レベル4では工場間に流れを持ち込みました。そして次のレベル5ではそれを前提に、「お客様に対して流れ」を実現することになります。
レベル1からレベル4までは工場という管理可能な範囲内での流れの改善でしたが、レベル5では、管理することができないお客様に対しても流れを作ろう、ということになります。
「お客様への流れ」で分かりやすいのは、カウンターに座って食べるお寿司でしょう。「マグロ下さい」と注文すると、目の前のカウンター内の短冊状のマグロの刺身を取り出してお寿司用に切って、すでに炊いてあるすし飯を使って、目の前でパッと握ってくれます。
何を言いたいのかというと、注文を受けてからマグロを釣りに行ったりご飯を炊き始めるわけではなく、既に用意されたそれらを使ってお寿司を作るということです。すなわち、お客様への流れといってもすべて注文を受けてから作るのではなく、部品のところまでは前もって作っておいて、注文を受けた段階で完成品に組み上げるということです。
ですから、お寿司を握っている職人さんは、目の前にお客様がいても注文がない時はなにも作りません。「次のご注文は?」などと口は動くかもしれませんが、手は動きません。注文のある時しか作らないからです。
日本の自動車産業は早くから注文生産を実現しています。例えば、私がある乗用車を注文したとします。車種、グレード、色、オプションなど細かい注文を出すわけですが、それらを全部満足した車が2週間後くらいに手元に届きます。
日本では当たり前のことですが、これを海外の人に話すと一様にびっくりされるので、多分これは、日本独特のモノづくりなのだと思います。海外でも一部の高級車にはこのような注文生産はあるとのことですが、半年から一年待つとも聞きました。
自動車の例をあげて注文生産の話をしましたが、注文生産でなくてもお客様への流れは可能です。売れた商品を売れただけ補充する後工程補充型生産で、その補充をチョビチョビギリギリに実行するのです。
先日、駅弁の「峠の釜飯」で有名な荻野屋さんで話を聞き現場を拝見しました。
荻野屋の工場は群馬県の横川にあり、そこから県内の駅やドライブインに二時間おきに釜飯を配達しています。私は子供の時から「峠の釜飯」が好きで機会があるたび食べていましたが、いつもほんのり暖かいのです。不思議だなと思っていましたが、理由が分かりました。荻野屋では工場で作った暖かい釜飯を毛布でくるんで、いる量だけ配送しているのです。場合によっては、たった一個だけの配達ということもあるそうです。
私は、今年の正月に東京のあるデパートの全国駅弁大会で峠の釜飯を買って食べたのですが、その時ももちろん暖かかったのです。そこでその理由を聞いたら、デパート内にミニ工場を作って配送していたとのことでした。
ですから、もし突然の大雨が降ってお客様がピタッと来なくなったら、工場もピタッと止まるということです。これをレベル5のお客様への流れといいます。
在庫を完成品で持ってしまうと、売れなければ大幅値下げや廃却になってしまいます。しかし材料や部品で持っているのであれば、いま売れなくても後で使えますから、資金効率は大幅に向上します。また、食品の場合は何よりおいしい出来立てをお客様に渡すことができますね。