いよいよ、2014年卒業・入社予定の学生の就活(就職活動)が本格化している。
しかし、日本経済の失われた20年の影響で、学生の就職は超氷河期が続いているのは言うまでもない。
少子化が大きな社会問題となっているにもかかわらず、今や子どもを産んで育てて大学まで出しても
5人に1人は仕事がない時代だ。
いつの時代も若者は社会の鏡。人事部でなくとも、大学生の親でなくとも、就活の実態は知っておくべきである。
採用する側の企業、採用される側の学生、学生を送り出す大学の3者と、
直接的な利害を持たずに接する機会から得られる情報を元に、今時の就活キーワードで当世就活事情をご紹介しよう。
◆「ANT」「NNT」って何?
就活とは学生が「NNT」から「ANT」を目指す活動だ。
と言っても何のことかわからない人も多いだろう。
「ANTって英語でアリだから働きアリのこと?」ではない。
「NNT」とは、 Nai Nai Teiの略だ。「無い内定」の意味で、間違っても内々定ではない。
一方、「ANT」とは、Aru Nai Tei、「有る内定」である。
何でも略せば良いというものではないが、2ちゃんねるが発祥と言われ、今や学生の間では広く使われている俗語だ。
しかし、就活学生たちを取り巻く状況はそんな笑い事ではない。
◆大卒の5人に1人が「不定職者」
若者は社会の鏡だ。言うまでもなく、日本経済の失われた20年の影響で、学生の就職は超氷河期が続いている。
恐ろしいことに、今や大学を卒業しても、5人に1人は定職がない。
文部科学省の学校基本調査でも、 2011年春卒業の大学卒業生の内、就職も進学もしなかった人は、
アルバイトなどを含めて10万7134人で全体の19.4%に上る。
つまり、5人に1人が正社員になっていない、否、なれないのだ。
ここ数年、大学を卒業した春に定職に就いていない人は10万人を超え、ほぼ毎年増加し続けている。
少子化が進んだ結果、近年、同じ歳の若者は、たったの120万人強、大卒者は55万人しかいないのにである。
総務省の人口推計によれば、2013年(平成25年)1月1日時点の日本の20歳の新成人の数は122万人で、
総人口の1億2747万人に占める割合はたったの0.96%に過ぎない。
新成人数は、ここ3年連続で1%を割り込んでいる。
一方、巳年生まれの年男・年女の数は、1977年(昭和52年)生まれ(13年の誕生日で36歳)は171万人、
1965年(昭和40年)生まれ(13年の誕生日で48歳)は178万人、
1953年(昭和28年)生まれ(13年の誕生日で60歳)は168万人いる。
少子化が大きな社会問題となり、大学は全入時代を迎えて厳しい経営を強いられているにもかかわらず、
子どもを産んで育てて大学まで出しても仕事がないのだ。
「ANT」になれなければ、学生でも、社会人でも、ニート(NEET=Not in Education, Employment or Training)でもない、
「不定職者」になってしまう。
就活がうまく行かず「不定職者」になると、婚活(結婚相手を探す活動)も不利になる可能性が高い。
その選別が、20代前半のたった数カ月の就活で決定づけられるのだ。
◆経団連の「倫理憲章」により12月1日から「ES」登録開始
2013年卒業生以降、2014年卒業生も、基本的に、企業サイドの採用広報の開始日は12月1日、
採用選考の開始日は4月1日となっている。
これは、経団連が、2011年3月15日に改定発表した「採用選考に関する企業の倫理憲章」に基づいている。
2012年卒業生までは、採用広報の開始日、つまり、実質的な就活エントリーの開始日は
卒業前年度の10月1日だった。
この憲章によって、エントリーから選考本番までの学生の就活準備期間は2カ月も短くなった。
しかも、1月は多くの大学で期末試験がある。そのため、学生たちは、年末年始に、
企業の就職ナビサイトへの「ES」(エントリーシート)のプレエントリー登録とテスト勉強の板ばさみに苦しむこととなる。
さらに、学費をアルバイトで稼がねばならない学生は睡眠時間もない状態に陥ってしまう。
2014年卒業生の就活スケジュールは概ね以下の通りだ。
2月から会社説明会が始まり、2月上旬から3月下旬にかけて「ES」が受け付けられ、
2月上旬から4月下旬までに適正検査や筆記試験が行われる。4月1日から採用面接が始まり、
早い人はゴールデンウィーク前後に内定が出て晴れて「ANT」になる。
「NNT」の人は、夏内定、秋内定を目指し、引き続き足を棒にして企業訪問を続けざるを得ない。
卒業間際まで企業の求人はあるが、卒業式までに「ANT」になれなければ、
「就職浪人」になるか「不定職者」になってしまう。
近年、4大の卒業率は8割を下回っており、就職先が決まらず自主的に留年する学生も少なくない。
しかし、景気が急速に回復することでもない限り、「既卒」や「就職浪人」の就活は、さらに難しくなる。
2014年卒業生の採用数は、今のところ、2013年卒業生とほぼ同数と見られている。
2014年卒業生の就職戦線に対する見方は、強気派と弱気派に別れる。
強気派は、採用広報活動が12月解禁になって2年目なので前年度よりは情報も多く事前準備がしやすいという。
また、安倍晋三内閣のアベノミクスによる株価の上昇や円安誘導で企業の採用意欲が高まる期待もある。
一方、弱気派は、日中関係の悪化や家電など大手製造業の大規模リストラなどによって
企業の採用意欲が冷え込むと危惧する。
また、仮に景気が回復しても、正社員の採用増に及ぶまでにはタイムラグがあると覚めた目で見ている。
◆「ソー活」で人の一生を総括できるか?!
現代の就活は「ソー活」で決まる。
「ソー活」とは、FacebookやTwitter、アメリカでは就活に必須のLinkedInなど、
ソーシャルメディアを活用した就職活動の略語だ。
この「ソー活」の巧拙が就活の成否を決める。
つまり、「ソー活」が、大学生活の4年間を総括し、場合によっては人生そのものも総括することになるのだ。
大学生の約90%がソーシャルメディアのアカウントを保有しており、
そのほぼ半数が「ソー活」に活用していると見られる。
学生が「ソー活」する理由は、企業と他の就活生に関する最新の情報を知ることができるからに他ならない。
採用する側の企業も、印刷媒体の発行や企業説明会のあとに変更になったりした情報も
インターネット上にはすぐにUPできる。
しかも、単なるホームページの最新情報の更新によるワンウェイのコミュニケーションに比べて、
ソーシャルメディアによる「ソー活」であれば、就活生の反応もリアルタイムに見られるし、
Facebookでは一人がシェアするとそのお友達にも知られたり、Twitterでもリツイートされることで、
数多くの学生に情報が拡散され、より多くの学生の目に触れるメリットもある。
IT系企業やグローバル企業の中には、
Facebookユーザー限定の就職説明会やセミナーを開催するところも出て来ており、
もはや、「ソー活」なくして「ANT」なしになりつつある。
大学3年になると、就活を開始する際に、「ソー活」のために、ガラケー(ガラパゴス携帯)から
スマホに乗り替える人も多い。
スマホであれば、「ソー活」はもちろんのこと、いつでもどこでも、
企業の就職ナビサイトへの「ES」(エントリーシート)の登録や、
人事部や訪問したいOBからのメールも、その場でチェックしたり、返事することも可能だ。
人気企業の企業説明会はアッという間に満席になってしまうので、
企業ホームページからのエントリー登録のスピードが勝負となることも少なくない。
いつの世も「史記」の故事にある通り、先んずれば人を制し、遅れれば、すなわち、人の制するところとなる。
しかし、「ソー活」は、就活生にとっても、企業にとっても、諸刃の剣でもある。
例えば、自業自得ではあるが、学生時代にTwitterなどのSNSで、
それとなく、昔、カンニングや飲酒運転をしたことなどを、おもしろおかしく告白していたことがバレて、
内定を取り消されることもあるかも知れない。
また、FacebookやTwitterに就活や日々の活動を書いていたところ、
採用担当者にアカウントを検索され、面接でウソをついていたことが知れれる可能性もある。
一方、企業の側も、商品のリコールや社員の不祥事などのトラブルによって、
TwitterやFacebookページの企業アカウントが炎上した場合、
対処不能の状態に陥る可能性がないとも言えない。
「ソー活」は、まだ始まったばかりではあるが、SNSやスマホの急速な普及とともに、
一気に一般化・常識化しつつある。
今や、学生も企業も、「ソー活」を制する者が就活を制すのだ。
◆就活生の「二極化」が格差社会を生む
すべての学生にとって厳しい就職戦線が続いてはいるが、
ゼミナールや研究室、クラブやサークルの先輩や同級生の動きを身近に感じている学生は、
当然、就活の動きも早い。
どんどんナビサイトに登録し、「ソー活」で一早く情報を入手し、
希望する会社がインターンシップを採用すると聞けば、すぐに体験して人事に顔と名前を覚えてもらう。
しかし、そうった団体にも属さず、友人知人の少ない学生の中には周囲の動きを察知できず、
遅れを取ってしまう人もいる。
それがために、就活生の「二極化」が進んでいる。
何事も場数だ。面接や社会人との応対に慣れた学生は、いくつもの企業から「ANT」をゲットする。
一方、動きが遅く、学生気分が抜けきれない人は、いつまで経っても「NNT」のままになりやすい。
この就活時代の「二極化」が、そのまま、その後の格差へとつながってしまう可能性も高い。
企業は人なり。社会も人なり。
若者が将来に夢を持てない社会に未来はない。
一人でも多くの学生を正社員として採用できるよう、企業、国・自治体のみならず社会全体で
取り組んで行かねばならない。