人生百年時代。いつまでも脳の健康を保つためにはどうすればいいのか。37万部を超えるべストセラー脳の強化書著者 加藤俊徳氏に脳の鍛え方と守り方、講演音声の脳への活用法をお聞きしました。
加藤俊徳氏(かとう としのり)
株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳の新しい見方「脳番地」論を提唱。脳番地を用いた脳トレーニング法を提唱した著書「脳の強化書」(あさ出版)シリーズは、37万部を越えるベストセラーになる。経営コラム「リーダー脳の鍛え方」も好評。
社長は自分の体を管理することも大事な仕事
Q:人生百年時代と言われます。脳の健康を保つためには、日頃からどのようなことを心がけていけばよいでしょうか?
ほとんどの人が自分は大丈夫だろうと思っているんですよね。これは2代目の方や30代、40代の若い社長だけではなく、50代、60代の社長も同じように思っているかもしれません。
人生百年時代には前半と後半で、まったく違う心掛けが必要なのです。どうしてかと言いますと、いまは、健康医療が発達していまして、ほとんどの人が長生きするようになったのです。
1963年では、日本全国の百歳以上の老人は153人しかいなかったのです。あれから50年以上経った今では日本全国で百歳以上の超高齢者は7万人を超えているんです。つまり、50年間で153人から7万人になっているんですね。ですので、人生百年は、まれな時代ではないんですね。
そうした時に、経営者がどうやって健康を保ったらいいのかと言いますと、例えば50代から経営を任された人と、50代の前半から任された人は基本的に心掛けが2つ必要になります。50代前半の人でしたら50歳以降になったら自分が違った形で経営ができるような準備をすることを頭の中に入れておき、自分の健康を保つ必要があります。経営は10年、20年、30年先を見ているのですが、自分の健康だけはこの先もこのまま行けると思いながらやっています。
一番大切なことは、仕事をすることによって自分の生活リズムを崩さないことです。生活リズムは何かといったら、朝と夜です。『脳が若返る最高の睡眠 寝不足は認知症の最大リスク』(小学館新書)という本にも書いたのですが、僕も50代前までは睡眠を削って、自分の仕事をしてきましたし、能力が足りない部分は睡眠を削ることによって補うということをやってきました。これが現代の脳の健康というか、脳医学にとっては最悪の間違いだったということを自分自身も気がつきました。
睡眠を削ると、要するに、人生百年、長く健康でいられないんですよね。それは科学として睡眠の役割が脳の中にたまった老廃物の排せつと記憶力を定着させるという2つのことだとわかってきました。要するに現代人は睡眠を削って努力しないということがすごく大事です。睡眠を削らないで努力するという健康法が今一番、日常の心がけで必要なのです。
社長が寝不足をしてしまうと、これが一番問題です。寝不足によって、あらゆる病気が併発してくるんですね。それは、うつ病、糖尿病、生活習慣病、それから肥満、認知症まで。アルツハイマー型認知症まで併発してくるので、若い時から寝不足にならないようにどうやって経営をしていくかというのが、実は経営者が考えなければいけないことなのです。
なぜかというと、経営は自分がやりたいことを持続的にしなければいけないから、自分の頭の働きがすごく悪いと当然うまく行かないわけですよね。ですので、長くしっかりとした経営をするためには、寝不足にならないで、脳の健康を保つ。私のところには色んな会社の社長も来られます。やっぱり寝不足になったり、睡眠を削らざるを得なかったり、海外飛び回ってリズムを崩す人がいます。健康な人は海外に行っても帰国後に休みをとって修復している。つまり、回復する時間を自分で取っている。社長は自分の体を管理することも仕事なのです。
脳番地を鍛えれば脳は成長する
Q:加藤先生が提唱される脳番地(のうばんち)論を教えてください。
脳は女性だったら1350g、男性は1450gで、大体1.5キロ弱の重さがあります。大脳は右脳と左脳の分かれ、小脳もあります。地域ごとに番地もあるように、私たちの脳も場所ごとに番地があり、役割が違います。それを僕は「脳番地」と名付けています。
例えば、一生懸命に運動したら、運動系の脳番地が伸びるし、しっかり考えたら思考系の脳番地が伸びます。一生懸命、記憶したら記憶系の脳番地が伸びます。記憶というのは、最初から記憶力がいいわけではなくて、記憶力を鍛えたから記憶系の脳番地が伸びて、記憶がアップするのです。そのように場所ごとに決まっているんですね。
それを大体、系統ごとに分けると、運動系、伝達系、それから思考系、運動記憶系、理解系、感情系、視覚系、聴覚系。8つの脳番地に分けて、それぞれが機能して、連携を取りながら、脳が成長しているということなんですよね。ですので、しっかり講話を聞いたり、人の話を聞いて耳を傾けるということをしていれば、聴覚系の脳番地がすごく鍛えられて、なおかつ「そうだな、そういうことも言われていたな」と思い出すと、記憶系の脳番地が鍛えられるという、そういう仕組みになっているということです。
日常生活でも脳を鍛えられる
Q:脳番地を鍛える簡単な方法や効果はどのようなものがありますか?
脳番地は日常生活で鍛えられます。例えば現代人が一番不足しているのは「歩行」です。1日1時間以上、歩いて運動系脳番地を鍛えている人は元気ですね。どうしてかというと、人類は2つの足で歩くことによって動き回り、情報を取っていったのです。二足歩行が脳全体を活性化する根源なんですよ。元気がなくなったり、脳が成長していない時は、ほぼほぼ、ほとんど運動不足が問題です。単純に朝早く起きて、午前中の9時までにしっかり1時間以上歩く。それを1カ月続けていけば、やる気がみなぎってきます。
そのほかに挙げるとしたら、「片付け」ですね。経営者は忙しいから、自分の身の回りのことをスタッフがやってくれます。お茶出しもそうだし、全部揃えてくれる。経営者は面会してお話を聞く、交渉するという、単純じゃないんですけど、同じパターンで1日を過ごすことが多いんですよ。裏を返すと、そのセッティングは誰がやっているのかというと、周りの人たちが揃えてくれているんですね。
お茶を片付けて洗う。整理整頓、あるいは、片付けというのを全部周りのスタッフがやっているので、どんどん周りのスタッフの方が頭が良くなってくるんですね。脳が鍛えられる。ですので社長は家で茶わんを洗いましょう、あるいは、床の雑巾がけをしましょう。掃除をするというのはすごく目も使い、両手も使い、普段使っていない脳番地を使います。
講話を聴き新しい情報を取り入れる
Q:収録物で情報をとられる社長は車などの移動中や会社などで講話を聞いております。このように講話を聞くことは、脳の健康にもいいことでしょうか?
まず、一番大事なのは、講話を聞きたいと思っている脳の状態です。すごくイキイキしているんですよね。ですので、新しい人の話を聞いていないなとなると、それは新しい情報が脳に入っていないということなんですよ。これを続けていくと、脳の聞く力の衰えが進みます。これは、海外に行ったり来たりしている人だったらよく分かると思います。日常、英語を使っていない状態で、海外に行くと最初の1日2日は、外国人の英語が雑音のように聞こえてくるんです。
耳から素通りしていくわけ。だけど3日か4日位すると、エンジンがかかってきて脳の中に届くようになります。これはまさしく講話を聴く原理と一緒で、新しい話を聞いていないと、人の話が耳の中に入ってこない。「経営者は脳の聞く力を育てなさい」と言いたいんです。
新しい情報を聞くとなぜいいかというと、聴覚と記憶力は連結しているんですよ。新しい情報が聞きたいな、講話が聞きたいなというワクワクする状態というのは、実は聴覚系の脳番地だけではなくて、それを理解する理解系の脳番地だったり、実は記憶系の脳番地も刺激しているということなんです。
聞きたいという意欲は記憶系の脳番地の中心である海馬がすごくイキイキしている状態なんですよね。海馬の周辺から認知症になりやすいので、講話をどんどん聞きたいと思うような状態をできるだけ長く日常生活の中で維持するということが、脳の健康と記憶力の持続、あるいは、増進にすごく大事だと思います。
自分の業界と異なる講話を聴く
Q:講話CDの内容によっても、その効果や脳にもたらす影響は変わりますか?
変わります。単純に言うと、人によって話ぶりや声の音色は違いますよね。そうすると、耳に入ってくる声の質の違いというのは、その人に対するイメージだったり、印象だったりというのが違いますよね。
まず、講話の種類が違うことによって、脳の中の感情系の刺激になるし、想像力も豊かになります。それは、単純に講話の内容じゃなくて講話をする人に対するイメージというのがすごく重要だと思うんですね。
それは、ビジネスの上でも目の前の人がどういう声を出して、どういう話ぶりをするのかというのは、人生観や人間性がすごく出ます。もちろん日本経営合理化協会で講話をされる方々は卓越していた人生と人生観をお持ちの方が多いでしょうから、それはすごく有益だと思います。
講話の中身も、例えば、食品関係の仕事をしたり、IT関係の仕事をしていたりと、年を重ねていくと、自分の業界の話はすごくよく聞こえてくるんですね。あるいは、興味を持ったりするんです。だけど、他の業界の話だと、えっと思っても新しい情報が入りますよね。ですので講話の内容も実は自分と距離のある業種を選んで、そこで自分の業界と共通点を見つけたりする聞き方というのもすごく新鮮なんですね。色んなご経験を持っている経営者の人にとっては、そのような聞き方がすごく新鮮だと思います。(後編へつづく) ※本コラムは「ビジネス見聞録」に掲載したものです