伊藤忠商事会長の小林栄三氏は、
「一人でも部下をもつようになったら、その部下を育てることが一番の仕事だ考えた」
という。
小林氏の部下育成法で広く知られているのは、新入社員に課した「週一レポート」だ。
新入社員に、一年間、週に一度のレポート提出を求める。テーマは自由だ。
仕事に関することに限らず、スポーツでも、社会時評でも何でもよし。
A4の用紙にパソコンの標準的な文字組で1~2枚程度。文章の上手いまずいは問わない。
求めるだけでは部下はついてこない。
小林氏は、出勤の車中はもちろん、出張中もレポートを持ち歩き、一人一人に、
感想やアドバイスを添えて返すようにした。
「毎週、レポートを一年間も続けて書いていると、
次第に気負いやポーズがなくなり、
本音や地が顔を出してくるものです。
それを知ることが目的だったし、
一番のメリットでした」 と、小林氏は言う。
この週一レポートで、自信をもって人材配置を行えるようになった。
小林氏の新人育成は、二年目に「本番」に突入する。
一年目はほとんど叱らない。ミスに気付いても軽く注意し、丁寧に教える程度に止める。
だが、二年目からは、時には怒鳴る。
レポートで性格がわかっているので、怒られたらどういう行動をするのかも予想できる。
へこたれないタイプを選んで、あえて叱られ役もつくった。
そのかわり、叱ったあとはフォローする。ほとぼりがさめた頃、飲みに誘い、
「あの時は、こういうことで怒ったのだよ」と、きちんと説明するのだ。
こうすれば、感情的なしこりは残らない。
マイナス感情が積もっていくのを避けるやり方だ。
「八ほめ二直言」というルールがあるが、それは、部下に対しても通じる。
再生ダイエーのCEOなどを歴任された横浜市長の林文子さんは、
ホンダ、フォルクスワーゲン、BMWと自動車会社を渡り歩き、
どこでもトップセールスレディとなった人だ。
彼女は、ダメ部下をしかるときはこんなふうだったという。
「あなたを見ていると、本当にくやしいわ。
こんないいところがあるのに、こんな成績だなんて。
本当にくやしいね」
「あなたは素晴らしい。こんな魅力の持ち主だったのね。
・・・でも、なんでこんなルール違反をするのかなぁ」
といった具合だ。
林さんは、こう言っている。
「部下を育てるには、すぐに結果を求めるのではなく、
子供を育てるように、まず、心のベースをつくる。
それから、仕事のスキルアップにとりかかる。
そうでなければ、
本当のスキルアップははかれないものです」と。
まことに同感だ。