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人間学・古典

第8講 「言志四録その8」
口舌は人従うことを肯ぜず。躬行は人これに従う。 道徳は人自然ニ服従し痕跡を見ず。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学

【意味】
口先だけの者には人々は従わない。自ら体で示す者に従う。
徳識の人には誰もが心服し、服従している意識さえもない。


【解説】
躬行は身を弓のように曲げて自ら率先垂範すること。
有名なのは「して見せて、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」の帝国海軍山本五十六元帥です。


卒業式の日、ある教員が学生の代表に卒業証書授与の指導をしていました。
まず、自分で証書を受け取る見本を示しながらの説明です。次に壇上で実践させ修正点を細かく指示します。
最後に「その出来なら校長先生より立派だよ」と一言、式典を控え緊張する学生に笑顔がこぼれる瞬間です。

ほんの数分間に見本・説明・実践・賞賛の4つが段階的に盛り込まれていました。
中でも賞賛は最も難しいものですが、最後の一言で見事に表現していました。
このレベルの教員なら、式典の後にもその学生に労いの気遣いができたと思います。
改めて現場の教育に携わる教員の実力に脱帽した次第です。


人間には、今日まで生きてきた生活の中で発せられた言動があり、
良いも悪いも全てが蓄積されて、その人間の雰囲気を醸し出します。
この雰囲気を「人品」と言いますが、周りから尊敬の念をもって評価される人品を、徳性又は単に徳と言います。
そしてこのような徳を備えている人々を「徳のある人」と言います。

この「徳のある人」になろうとする行動や修行を「徳行実践」「徳を積む」といいます。
私は徳を積む行動を従来の思想観より広く捉え、陰徳業・陽徳行・宝徳行に3区分としています(陽徳・宝徳は造語です)。


陰徳は、文字通り「陰で積む徳」です。
良い事をする時には、できるだけ隠れてこっそり行いなさいということです。
このような考えには儒教的な背景がありますが、
一つは美徳が自惚れにならないようにするため、もう一つは相手に負い目を感じさせない配慮からと言われています。

これに対して陽徳ですが、陰徳の逆で「太陽の下で堂々と積む徳」と定義しています。
自分のためだけの修行に終わらず、周りの人々の手本になるような目的も込めて、公衆の面前で堂々と徳を積むことです。
電車やバスでお年寄りに席を譲る行為などは、この陽徳行の実践例です。
「100万人の心の緑化作戦」では、最近の社会の乱れを考えて陽徳行の必要性を説いています。

最後に宝徳です。
これは陰徳行・陽徳行を永年続けてきた後に、天地自然の神様から
特別に褒美として与えられるような最高レベルの人品です。
ナイチンゲールやマザーテレサのような聖人の晩年の姿です。


このように言いますと我々とは縁遠い特別な人品だと思いがちですが、世間には「散聖」といって
世に知られることなく人々のために終生尽くして、ひっそりと息を引き取った聖人がたくさんいます。
僻地医療に長年携わった老医師や身を削り必死で我が子を育てる母親も立派な散聖の一人です。
彼らも立派に宝徳を備えた人たちです。

中国明代の思想書『菜根譚』に、「徳は事業の基なり」という有名な言葉があります。
企業の徳は、経営者の徳であり従業員の徳ですから、
企業がどう発展するかはトップの持つ徳がどのレベルの従業員にまで行き届くかに懸かっています。

まずは自分の徳積み、そして教化です。同じような権勢を誇った秀吉と家康ですが、
豊臣家が2代で終焉を迎えることになったのは、秀頼が幼かったからというだけではないようです。

 

杉山巌海

第7講 「言志四録その7」一燈を提げて暗夜を行く。 暗夜を憂うること勿れ、只一燈を頼め。前のページ

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