300人を超える従業員を雇用する小田社長の会社では、業務効率化のため、人事労務に関わる業務の一部を外部会社へ委託したいと考えており、最近話題のHRテクノロジーサービスの利用も検討しています。
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小田社長:賛多先生、弊社もお蔭様で少しずつ成長しておりまして、当初は数人で始めた事業が、今や従業員は300人を超えるまでになりました。
賛多弁護士:小田社長が明確なビジョンを持ち、挑戦を恐れずに事業経営されてきたからですね。そして何より、小田社長が従業員を大切にされていることも、御社が安定的に成長されている大きな理由だと思います。
小田社長:ありがとうございます。 そうそう…従業員の管理に関して、少し検討していることがあります。これまで弊社では、勤怠管理や給与計算について、社内担当者がパソコンを使って行ってきました。ただ、従業員もかなり増えてきましたので、今後は社内業務を効率化するため、人事労務分野の外部サービスを利用しようと思っているのです。
賛多弁護士:最近は色々と便利なサービスがありますし、上手に活用されたら良いと思いますよ。どのような業務を外部委託しようと思われているのですか。
小田社長:実は2つありまして、1つは、勤怠や給与などの計算・管理業務です。もう1つは、従業員のモチベーションを向上させる施策の一つとして、人事評価制度を見直しているところなのですが、その中で人事評価をサポートしてくれるHRテクノロジーサービスを使ってみようかと思っています。
賛多弁護士:従業員のために新しいサービスを積極的に活用されるとは、小田社長らしくて素晴らしいです! ところで、2つ目のHRテクノロジーサービスはどんなものなのでしょう?
小田社長:あまり詳しいことはまだわからないのですが、従業員の勤怠情報や業務上の成績などの情報から、AIがその従業員の貢献度を分析するサービスのようです。
賛多弁護士:なるほど、最近話題になっている新しいサービスですね。いずれにしても、従業員の個人情報に関わりますので、個人情報保護法に留意いただければと思います。
1点目の勤怠や給与に関するこれまで社内でされていた業務を外部業者へ委託することについては、個人情報保護の観点から外部業者が適切な対応をしているかなどを確認してください。委託先の監督を行っていただくということです。
2点目のHRテクノロジーサービスは、「従業員情報の一部をAIに分析させる」という新しい試みのようですので、個人情報保護法上、委託先の監督だけでなく、従業員との間で従業員情報の利用目的を明確にしていただいたほうが良いでしょう。具体的には、例えば、「会社が取得した勤怠情報、業務上の成績を分析して人事評価のために利用する」などです。
小田社長:お~、そうですよね。なんとなく、従業員に対しては身内意識があって、会社が取得する従業員情報は人事管理上の目的のためなら自由に利用してよいという感覚でした。でも、当然、個人情報として扱わなければならないですよね。特にHRテクノロジーを利用して新しい取り組みをする際には、気をつけようと思います。
賛多弁護士:はい、従業員情報の利用目的について明示する際も、「人事管理上の目的」など抽象的な文言でなく、できるだけ具体的にしていただくことが大切です。
あとは、AIが分析した結果を実際の人事評価の補助(サポート)として利用される予定とのことですので、新しいサービスについて従業員の方が不安を抱かないよう、サービス導入の目的やサービスの内容を、会社側でまずよく吟味した上で従業員へ具体的に説明するなど、丁寧な事前対応を心がけていただければと思います。
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従業員情報も個人情報保護法で保護される個人情報に当たります。したがって、健康情報を含む膨大な従業員情報を取得・保有する企業には、従業員情報の取扱いについても、個人情報保護法や関連法令を遵守ことが求められます。企業がHRテクノロジーを利用する際には、上記のとおり利用目的を具体的に特定(※1)することや、外部業者へ従業員情報を提供する際の法的根拠(業務委託なのか第三者提供なのか)(※2)を確認することなど、サービス内容に照らして具体的に対応をご検討ください。
また、HRテクノロジーは、サービス内容によっては労働法に照らした検討が必要になることもありますので、その点にもご留意のうえ、新しい技術・サービスを上手に活用していただければと思います。
※1「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
3-1-1 利用目的の特定(法第17条第1項関係)」
※2「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
3-6-3 第三者に該当しない場合(法第27条第5項・第6項関係)
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 加藤 佑子