神田社長: 「事業成長担保権」ですか?
賛多弁護士: そうです。「事業成長担保権」では、不動産のような有形資産だけでなく、ノウハウや技術力、ビジネスモデルといった無形資産を含む事業全体が有する価値を担保とした融資を実現することで、従来よりも幅広い企業への資金提供の実施が目指されています。
また、「事業成長担保権」では、担保目的財産の範囲が広がるだけでなく、金融機関による融資先事業者への支援が強化されることも期待されているんですよ。
神田社長: なぜ、担保目的財産の範囲が広がることが、融資先事業者への支援が強化されることにつながるんですか?
賛多弁護士: これまでの融資は、不動産のような価値が安定した財産を担保にし、いざというときには、融資した資金を回収できるよう、担保価値の範囲で融資をするというということが一般的でした。
つまり、金融機関の融資は、融資先事業者の事業の継続や成長と関係は薄いが、価値が安定した財産で保全されているといえます。
これに対して、「事業成長担保権」は、事業価値や将来性に着目した融資ですので、事業の継続や成長に必要な融資が行われ、融資後も、融資先事業者の事業価値を維持・向上させることが、担保価値の維持・向上にもつながることになります。
したがって、担保価値の維持・向上のために、金融機関による融資先事業者への継続的な支援や経営悪化時の早期支援につながると考えられているのです。
神田社長: 金融機関も融資先事業者も、事業価値の維持・向上という目線を共有することができるということですね。
賛多弁護士: そのとおりです。「事業成長担保権」は伴走型の融資とも呼ばれており、金融機関が融資先事業者の事業経営をモニタリングすることを通じて、事業の拡大や承継、早期の事業支援を行うことが期待されているんです。
また、事業価値に着目した担保という性質から、原則として経営者による個人保証が制限されることになりますので、創業時や成長期での資金調達だけでなく、円滑な事業承継にも役立つと期待されています。
神田社長: 企業にとっては、メリットの多い担保制度だと思いますが、そんなにうまくいきますかね。
賛多弁護士: 今お話ししたのは「事業成長担保権」の担保目的財産についてですが、担保権設定には信託契約を用いるとか、担保権の実行手続をどうするかなど、複雑で分かりにくい面もあり、少数の利用にとどまる可能性もあります。
ですが、事業の将来性はあるものの、これまで融資を得にくかった事業者にとって資金調達の選択肢が増えることは、日本経済全体の発展にとっても重要な意義を持つと考えられています。
神田社長: 賛多先生、ありがとうございます。「事業成長担保権」が創設された際は、当社も利用できないか金融機関に相談してみます。
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「事業成長担保権」は、新たな担保制度であることにとどまらず、金融機関と企業との関係性も大きく変える可能性を持った制度です。
創業期・成長期のスタートアップ企業にとどまらず、事業承継を機に経営の改善を試みられる際など、資金調達の選択肢の一つとして検討されてはいかがでしょうか。
※参考資料
金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」報告
金融審議会「『事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ』(第1回)」事務局説明資料(資料3)
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 種池慎太郎
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