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「航空業界のユニクロ」を目指すスカイマークが採るLCCとは似て非なる戦略ポジション

楠木建の「経営知になる考え方」

LCCとは似て非なるスカイマークの戦略ポジション

 前回、スカイマークの再上場の話をした。スカイマークをLCC(Low Cost Carrier:格安航空会社)のひとつと認識している人が少なくない。しかし、これは誤解だ。スカイマークの戦略ポジションはLCCとは似て非なるものだ。

 もちろんスカイマークの運賃はFSC(Full Service Carrier)と比較して安い。主要路線の最低価格で比較すると、ANAやJALと比べて羽田―福岡で半額以下、羽田―新千歳や羽田-那覇で2/3程度と割安な水準にある。

 その理由は、当たり前の話だが、FSCよりもコストが低いからだ。付随的なサービスにはお金をかけない。例えば、FSCのようなミールサービスやラウンジ、マイレージサービスを提供していない。プレミアムクラスの設定もない。保有・運用コストが低廉な小型機(B737)のみの単一機材運航なので、整備士や部品の統一により整備コストを抑制できる。

コストを「かけるべき所にかける」

 ここまではLCCと同じ。ただし、ここから先が違ってくる。LCCは徹底的にサービスの質をコストとトレードオフさせていく戦略を採る。これに対してスカイマークは基本的な価値や利便性についてはきっちりとコストをかけている。

 例えば、プレミアムシートはないが、普通席のシートピッチは31インチでFSCと同じ(LCCは28インチ)。ピーチやジェットスターのようなLCCでは預かり手荷物は有料だが、スカイマークは無料。無料で預かる手荷物の重量も20キロまで。FSCと同じ設定になっている。

 荷物や座席についての利便性は移動する人にとって中核的な価値だ。中核的なサービスと付随的なサービスの仕訳をしたうえで、前者については妥協しない。そこにスカイマークの特徴がある。

「航空業界のユニクロ」を目指すスカイマーク

 「航空業界のユニクロ」――ひと言でいえば、それがスカイマークの目指すところだ。「航空業界の無印良品」と言ってもいい。ベーシックでプレーンでシンプルな価値にこだわる。それ以外のサービスを切り捨てることによってコストを下げ、相対的に低水準の運賃で普段使いの移動手段を提供する。低価格を一義的に追求するものではない。ユニクロよりも安い服を提供する企業は多々ある。

 おそらくもっとも見過ごされているのは、スカイマークの発着空港の選択だろう。首都圏を例に取れば、スカイマークは羽田発着の路線を主軸としている。LCCのほとんどは成田空港を使っている。もちろん成田空港を使った方がコストは下がる。

 それでもスカイマークが羽田を選択するのは、より都市部に近い空港を使用するということが顧客の利便性の中核にあるからだ。国内線に占める羽田路線の比率は、コロナ前の通常運行時で比較すれば、スカイマークがいちばん高く54%、JALは36%、ANAは34%、LCCは0%となっている。

シンプルにすればサービス品質も向上する

 ベーシック・プレーン・シンプルというコンセプトは、結果的に運航の安定性と品質にも寄与する。FSCを含めた日本の航空会社の中で、スカイマークは定時運航率第1位を5年連続で獲得している。安全性は当たり前として、定時運行は航空サービスの基本中の基本だ。運航品質に加えてサービス品質も高い評価を受けている。過去5年間にわたり、航空や鉄道なども含む国内長距離交通部門における顧客満足度で常にトップクラスで、今年は第1位を獲得している。

 ようするに中核的なサービスの質を犠牲にせずに、コストを下げてるというのがスカイマークの戦略で、言われてみれば当たり前の話だ。むしろ航空サービスの王道を往く戦略といってもいいのだが、FSCとLCCに二分される業界の中でなぜかこの第3のポジションを取ろうとするプレイヤーはなかった。

「移動する合理的な選択肢」

 ANAのゆきとどいたサービスは大したものだ。それでも、移動をするという基本機能に注目すれば、スカイマークは顧客にとってもっとも合理的な航空会社だと思う。今後は、チケットの購入から搭乗し、目的地で降りるまでの一連の顧客接点の設計をさらにシンプルにして、スカイマークのコンセプトを顧客が肌で感じるようにしていくことがカギになると考えている。

 これまでも繰り返し話してきたように、競争戦略の本質は「競合他社との違いをつくる」ことにある。アッと驚くような斬新な違いなどそうそうあるものではない。エアラインのように成熟した業界ではなおさらだ。一見して目立つ違いはないけれど、その実似て非なるものになる――ここに戦略の目のつけどころがある。

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