【意味】
帝自慢の駿馬が急死した。太宗は怒りに任せて馬係を死刑にしようとした。
【解説】
「貞観政要」の言葉ですが、名言というより太宗と取り巻きとの間の逸話です。
帝自慢の高級馬を死なせてしまった馬係の立場は、社長の高級外車を事故で廃車にしてしまった社員と似ています。太宗は若い頃から勇猛果敢な武人ですから、駿馬の死をことのほか怒り日頃の冷静さを失い、直ちに馬係を処刑にしようとしました。この時、賢夫人の文徳皇后は、夫太宗を次のように諭しました。
「昔、斉国の景公が、愛馬の死を怒り、係の者を死刑にしようとした時に、臣下の晏子が願い出て、その者の罪状を数えました。
①汝、馬を養いて死せり。汝が罪の一つなり。
②公をして馬をもって人を殺さしむ。百姓これを聞かば、必ず我が君を怨まん。汝が罪の二つなり。
③諸侯これを聞かば、必ず我が国を軽んぜん。汝が罪の三つなり。
これを聞いた景公は、その者の罪を許しました。陛下もこの教えをご存じのはずです。よもやお忘れではありますまい」と。
「妻、賢ければ夫の禍少なし」(俗諺)とありますが、太宗もまた文徳皇后の意見を入れて馬係を許しました。
トップ個人の実力や企業の総合力を測る際に大切なのは、表の部分とそれに付着する隠れた部分の両面からの観察が大切です。
表の部分とは、社長や幹部の経営力・企業の技術力や販売力・財務力や設備投資力などですが、これらは公表事項ですから、比較的把握しやすい項目といえます。これに対して隠れた部分とは、社長・社長夫人・幹部の私生活での行動(家族生活・趣味・遊び・学び)です。これらの行動センスを観察すれば、社長や取り巻きの品性器量が透けて見えます。
しばしば下請け会社の担当者に、呑み代やゴルフ代を支払わせている社長や幹部が見受けますが、上の者がこのような下劣な行動をしていれば、たくさんの部下も同様な行動を取っていることが想像されます。
こういう類の社員を「下請タカリ社員」といいます。ある下請け会社の社長は「最初は先方にも下請側にタカルという罪の意識があるが、下請け側は毎回先回りして支払いを済ませてその罪意識を軽減させるから、回を重ねるごとに当たり前となる。しかし毎回屈辱的な支払いをさせられる下請け側は、面従腹背のストレスが溜まる」とぼやいています。
古来名君には名臣良妻が多く、「良き臣は一国の宝、良き婦は一家の珍(宝)なり」(明心宝鑑)といわれますが、トップの立ち振る舞いが取り巻き関係者の行動品性を育てていることを忘れてはいけません。